壁画に出会うのに苦労した~メキシコシティ編~
メキシコは以前からぜひ訪れてみたかった国の一つであった。具体的な計画を立てる段階で、マヤの古代遺跡やカンクンなど候補地はたくさんあったのだけれども、日程の都合から結局メキシコシティのみを3泊で訪れることになった。
メキシコシティだけと言っても、50km離れた周辺のテオティワカン遺跡と国立人類博物館は本来見逃せないはずだった。しかしながらブラジルで感銘を受けて以来、ラテンアメリカの近現代美術にすっかりはまった私の意向を汲んで、壁画や美術館めぐり中心のスケジュールを立てたところ、結果として11月の第三月曜の革命記念日にかかっていたために、建物が非公開になっていて壁画が見られないという事態にたびたび遭遇することになった。
という訳で、思ったような成果が得られなかったという感情が残ってしまったのだが、メキシコでの体験を記したい。
11月16日
リマからメキシコシティへはアビアンカ航空960便を利用(世界一周航空券)、約6時間と結構長く飛行機に乗っていた。
ホテルはソナ・ロッサにオープンして間もないイビススタイルズ。イビススタイルズはポップなインテリアが特徴。元あったホテルをイビスのチェーンに取り込み、リノベーションして営業しているのではないかと思われる。
この世界一周旅行の間、最初は行き先毎に「どれがいいかな?」と宿泊予約サイトでいろいろホテルを探していたが、3つ目の訪問地のジャカルタ以降、断然イビスを利用するようになった。理由は
1.品質が一定で予測がつき、不安が払しょくされること
2.概ね立地がよいこと
3.公式ウェブサイト利用で「探す→予約」にかかる時間が短縮できてポイントもたまること
私はイビスはホテル界のLCCみたいなものだと思う。実際のところ、LCCに乗ってイビスに泊まって旅をし、どういう人たちが利用しているのかを観察すると、世界を移動する人々の裾野がビジネス・ユースでも個人旅行でもいかに広がっているかということを実感できる。この広がりがもたらすインパクトはとてつもなく大きく、イビスのようなサービスがこれを支えているのだと思う。
夕ごはんは当初宿の近くでガイドブックに載っているお店に行こうとしたのだが、土地勘がつかめず、ぷらぷら歩いていたら繁盛しているタコス屋さんがあったので入ってみた。
チェーン店らしい。
シンプルなパストール(削いだ豚肉が入っている)。お肉のカリカリ、パイナップルの甘酸っぱさ、香菜の香り、そしてそれらを包むトルティーヤのトウモロコシの独特の味わい。いくつでも食べ続けたいくらいおいしいと思った。
こちらはチーズ入り。玉ねぎと緑のソース(グリーントマト、青唐辛子、アボカドなどが入っている)がまた素晴らしい。
メキシコのビール、ソル。
ソルは瓶にいろんな言語で「ビールSolお願いします」と書いている。これは偶然日本語だった。
これはどこの言葉だろう(中東っぽい?)
11月17日
街歩きはまずソカロへ。メキシコ史の重要な式典が行われてきた中央広場は大きく、それを囲む建物も巨大である。
メキシコにあるすべてのカトリック教会を統括するメトロポリタン・カテドラルの迫力ある建物が目に飛び込んで来る。
周辺には物売りがいてにぎわっていた。お願いごとや占いを行う人々も。
植物がメキシカンな雰囲気を醸す。
カテドラルのオルガンは荘厳。お昼のミサ中であった。
カテドラルの天井から釣り下がるフーコーの振り子。
バロック様式の装飾。
ここでも靴磨きは屋根付きの椅子が装備されていた。
バカでかいという形容がぴったりなソカロ(中央広場)。
メキシコ独立の舞台となった国立宮殿。ディエゴ・リベラの最も大きい壁画『メキシコの歴史』を見たかったが、残念ながらこの日は非公開だった。
祝日だったので人が多かった。街はホリデイシーズンだからなのか買物モードがすごい。
パステル色とキリストの組み合わせが目に留まった。
通りにいくつも出ていた違法露店が「警察が来る!」という情報で一瞬にして店じまいして逃げるところに遭遇した。すごい庶民のエネルギーだった。
大気汚染が深刻な問題となってきたメキシコシティ。三輪タクシーには公害対策の意味合いもある。
街中をこんなふうに走っていた。
こちらはミクロブス(ミニバス)。
アステカ帝国の中央神殿跡であるテンプル・マヨール周辺から散策し、壁画があるサンイルデフォンソ学院、メキシコ文部省と訪ねたが、祝日で閉まっていた。残念。
ポルトガルの青いタイルを彷彿とさせるタイルの家。
メキシコは若年者の人口比率が高く、40 歳未満の人口が全人口の 71.2%を占める(2010年)。この写真を見ただけでも平均年齢が若そうだとわかる。
大道芸人もネタがメキシカン。
ベジャス・アルテス宮殿。クラシックのコンサートやオペラ、伝統舞踊ショーなどを上演している建物だが、日程が合わず公演を体験することはできなかった。
劇場前には広場、周りには公園もあって人々が憩っていた。
広々とした劇場建物の内部。ここにも壁画がある。
べジャス・アルテス宮殿前の広場から見たラテンアメリカ・タワー。182メートルある。右側の建物はデパートのシアーズ。
シアーズの入口。店内は昔ながらのデパートといった趣だった。
周囲はオフィスビルが建つ地域へと続く。
昨日からすっかりタコスの魅力に取りつかれた私。インターネットやガイドブックでお店を調べていくつか行ってみた。
ベンジャス・アルテス宮殿にほど近いEl Huequito。チーズをはさんだトルティーヤ。
パストール。ここではくるっと巻いて出て来た。味は2品とも特に特徴なく普通だった。
地球の歩き方に載っていたEl Progreso。繁盛店。牛のビステク(ステーキ)とチーズ入り。玉ねぎ、ハラペーニョなどの薬味がいろいろ揃っていて、自分で好きに入れて食べる。写真を見て想像つくと思うが、たくさん載せすぎて食べるときに崩壊した。味は確かにおいしかった。
トリッパなどを煮る大鍋があって迫力満点だ。
レフォルマ通りのホリデイ・インの隣りにイマドキのショッピング・モールがあった。テナントはZARAなどどこでも見かける顔ぶれ。大勢の人々でにぎわっていた。
高層ビルが多い。
夕日の独立記念塔。
11月18日
レフォルマ通りをチャブルテペック公園目指して歩き出した。ウィークデイの朝はまた違う印象を受ける。足早に仕事へ向かう人々が歩いていた。
凝ったデザインの高層建築物が多い。
公園の東側入口にある英雄少年記念塔。
近代美術館を訪れた。アトリウムの黄色い円形の天井が印象的。
メキシコへ行ったら絶対見たいと思っていたフリーダ・カーロの『2人のフリーダ』。以前彼女を題材にした映画を見て、あまりの壮絶な人生に衝撃を受けて興味を持った。
美術館の創立50周年を記念して主要な50作品を展示した展覧会を見た。美術館の名前どおり対象が「近代」で、奇想天外なアイディアと感じるものはほとんどなかったが、メキシコ美術の系譜を感じることができた。
ソカロ地区へ移動して、昨日入れなかったサンイルデフォンソ学院へ。壁画がある場所はこの日もイベントで使用中のため見ることができなかったが、現代美術の展示を見ることができた。
この作品シリーズ、どこか他の美術館で前にも見たような気がするのだが気のせいか?
メキシコ文部省の壁画は無事見ることができた。中庭を囲んで四方が壁画になっている。
壁画はやはり色が落ちてくるため修復作業が行われていた。祭りや人々の暮らし、メキシコ革命などが題材になっている。民衆の苦難が伝わってくる作品が多かった。
地下鉄の車両内の案内。駅ごとにイラストで表示されている地下鉄を初めて見た。
この日はホテル近くの伝統あるメキシコ料理のレストラン、Fonda el Refugio(フォンダ・エルレフヒオ)で食事した。
地元のビール、ボエミア。
こちらはインディオ。
ワカモーレは奇をてらわないスタンダードな味。おいしくてあっと言う間に空になった。
豆のスープはなんとバナナ入り!
チリに漬け込んで焼いたチキン。
お店のインテリアもメキシカンだった。
私たちのメキシコ滞在はこのようにこの国のほんの一部だけを体験するものであった。だからメキシコシティについても新興国のメガシティという印象を持っていた。
しかし私たちが去ったすぐ後で、9月に南部のゲレロ州でメキシコ人の教員養成大学の学生43人が市長の命令で警察に拘束された挙句に麻薬組織に引き渡され、殺害された上、遺体は燃やされて川に遺棄されたという事件に対する抗議行動が激化、メキシコシティの中心部でも抗議デモに参加していた一部の人々が暴徒化し、銀行に火炎瓶を投げつけたり店のショーウィンドーを割ったりし始め、機動隊数百人と衝突したというニュースが大きく報じられていた。自分も歩いた通りで暴動が起きている映像を見るという体験は初めてで、とてもショッキングだった。経済発展や犯罪率の低下といった前向きな成果がある一方で、まだまだ官僚の汚職や麻薬犯罪などの根が深いことに一筋縄ではいかない国の発展の難しさを痛感した。
(2014.11.16~11.19)
続いて、ロサンゼルス編へ