トップ>here
MTT/SFSコンビのマーラー交響曲第3番を聴く
ティルソン・トーマス&サンフランシスコ交響楽団の2011/2012シーズン、3週目のプログラムは、マーラーの交響曲第3番。同コンビがこの曲を演奏するのは、2002年のSFS Mediaの録音のとき以来。3番はCDの演奏が素晴らしいので、期待が高まります。
今日特筆すべきは、コンサートマスターがバランチックではなかったこと(アシスタント・コンサートマスターのジェレミー・コンスタント氏)。今まで私が聴いてきたマーラーは、全てバランチックとカーリーヘアのお姉さん(私はこう呼んでいる。ナディヤ・ティッチマン氏)の二人コンマス体制だったので、初めてのケース。ティッチマンはオープニングから3週続けて姿を見ないから、やっぱり心配(追記:レビューを見ると、初日はバランチックが弾いていた)。
1楽章を聴いたとき、
今日は普通?
と思いました。素直な解釈で淡々と進んでいたから。トーマスも握りこぶしに力が入ることもなし。トロンボーンがシーズン・オープニングの「青少年のための管弦楽入門」で素晴らしかったので楽しみにしていたのですが、期待通り。ティモシー・ヒギンズのソロは、いろんな音色があって、弱音も美しかったです。
再現部のトロンボーン・ソロの後の弦の表現が、透明感がありながらも深くて印象的でした。
2楽章も弦の表現に目が行きました。3楽章、ポストホルンのところはトランペットで吹いていました(追記:これは私の思い違いだったようです。失礼しました)。マーク・イノウエは安定した演奏。ポストホルンの部分で注目だったのは、背景で鳴っているヴァイオリンにビブラートをかけていなかったこと。新鮮な響き。ポストホルンのソロの最後に組み合わされるセカンド・トランペットのミュートで入るファンファーレ(345小節)も舞台裏から吹いていました。これも音響的に面白かったです。
4楽章は、今日そこまで聴いてきた中で最も素晴らしいと感じました。メゾ・ソプラノのカタリナ・カルネウスは透明感があってトーマス路線にぴったり、かつ深みのある表現。歌に組み合わされるオーケストラの音色や表現が、MTT/SFSコンビのマーラーならではのもの。
4楽章の最後数小節のところで合唱が起立し、続けて5楽章へ。こういう入りのタイミングのセンスがトーマス。合唱はセンターテラス席(サントリーホールで言うところのP席)で、かなり人数がいました。少女合唱は比較的年齢高めの子で揃えた感じ。グロッケンもセンターテラスの合唱の横で鳴らしていました。
今日の私の席は、プレミア・オーケストラ(1階席)後方のセンターだったのですが、ちょうど私の席くらいが合唱の声が飛んでくる場所だったので、鐘に包まれるように聴こえて迫力がありました。5楽章の最後の「ピーン」という音は、録音だとものすごく印象的に入っているのですが、生ではそれほどではありませんでした。これは録音とオーディオの力だったよう。
そして今回の3番で最大の取り組みだった6楽章へ。分厚い響きで始まるのかと予想していたのですが(昨年のタングルウッドの教育オーケストラのときがそうだった)、あにはからず。透明な弱音。
しかしここには策があったのでした。弦のいろんなセクションが順番にメロディを弾く一つひとつの表現に磨きをかけ、その一つひとつの推移を手に取るように見せていく表現なのです。これは新鮮な驚き。移り変わるつなぎの部分も非常に神経が配られていました。
私が見ていた限りでは、複数の弦が同時に鳴るときは、メロディのパートは普通にビブラートをかけ、ハーモニーのパートにはビブラートをかけない、だけどこれもケースバイケースで、所によって弾き分けているようでした。
こうした細かい表現が折り重なって音楽が紡がれていく。管の奏者にもいちいちスペースを与えて、その中で各パートが独自に表現する、表現の妙を競わせているかのようでした。
これは全くニュー・ディレクション。だてに100周年祝っているわけではなかった!やはり今まで以上のステージを目指すために、前シーズンまでとは明確に違う、新たなチャレンジに突入しているのだと思われます。
コーダは輝かしい響きが広がっていました。とにかく今日の構成は、全てのことが6楽章に収れんする方向性というか、そこに向かって行ったというもの。曲が終わったとき、トーマスも成果に満足そうでした。
今日は今までになく、日本から聴きに来ている人が何人もいるようでしたが、このコンビらしい演奏を楽しんでいただけたのではないでしょうか。そして、今後彼らがどう展開していくかも楽しみ。
私はこれで、ティルソン・トーマス&サンフランシスコ交響楽団コンビのマーラーの交響曲1番から9番までの生演奏体験を全曲制覇!(足かけ5年)
サンフランシスコ・クロニクルのレビュー
非常に的確に伝えている。
おまけ:トーマス情報
MTTは最近マーラーのときは、指揮台横に水をセットし、楽章間で口に含んでいる。ウィーン公演のときもそうでした。今シーズンの衣装は先シーズンと同じ。
(2011.9.24)