MTT的教育法
ある人事コンサルタントの方から、「プロフェッショナルを育てるのに一番良い方法は、プロフェッショナルと一緒に過ごさせることである」というお話を聞きました。
これは、ティルソン・トーマス(MTT)が、ニューワールド交響楽団でとっている方法そのものです。
能力と才能を有する選ばれた若手演奏家に、究極のプロフェッショナルである彼と時間を共有させ、プロフェッショナルとはどういうものか感じ取ってもらう。
このことの成果は、既に630名もの卒業生を世界中のオーケストラに輩出していることで証明済です。
大前研一さんが、トップの人間をどれだけ伸ばすことができるかが国力を決めると言っていますが、MTTの活動はまさにそれです。
【他との違い】
若手を育成する活動は、多くのアーティストがやっていますが、ティルソン・トーマスの活動が他と違うのは、
1.短期間のセミナーなどではなく、3年間という時間をかけた常設のものであること。
2.アントレプレナーシップがある演奏家を育てるということを明確にうたっていて、自発的な企画などのチャンスを与えていること。
3.アメリカ国内はもとより、ヨーロッパへの演奏旅行などで評価を高め、リクル−ティングにつながるフォローまできっちりやっていること。
4.彼から学んだことを教え子たちが次に伝えるというプラスの連鎖につなげていること。
例えば、サンフランシスコ交響楽団の首席ティンパニストのディヴィッド・ハーバードは、ニューワールド交響楽団の出身なのですが、彼はオーケストラで活躍している他にも、PMFの講師として後進の指導をしています。
【地域で芸術家を育てる発想】
ティルソン・トーマスがプロの演奏家を育てることにどれだけ本気かということは、彼がこれを始めるときに最初に専用の劇場(704席)を確保したということからも窺えます。
ここではシーズン中、週3回くらい様々なスタイルの演奏会をやっています。チケットは無料〜10ドルくらいのものから、MTT出演の150ドルするものまでありますが、とにかく地域の人々に観客・ボランティア・支援者として広く参加してもらいながら演奏家を育てる仕組みになっていることが大きな特徴です。
日本の音大で一般公開している演奏会でも、地域で応援するという雰囲気ではないし、学校が学生に提供する人前で演奏する機会も限定されているように思います。
ちょっとした発想の転換で、地域の人も一緒に芸術家を育てていく仕組みが築けるのかもしれません。
(2007.7.12)