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MTTへの高給批判噴出する
サンフランシスコでティルソン・トーマスの高給への批判が起きています。
サンフランシスコ市は、サンフランシスコ交響楽団が1930年に財政が行き詰まったとき以来、毎年税金から補助金(現在1.8百万ドル)を出してきたそうなのですが、この補助金の対象団体からシンフォニーをはずす案が出てきて、その中で「何でシンフォニーはこんなに金がかかるんだ」という話から、
MTTは金もらいすぎだろう
という話になった模様。批判している意見は、“非営利団体”一般の金銭感覚に引き寄せて語っており、彼らが
ショウビジネスであり、いわば芸能界の人たちである
という視点が全く抜け落ちているのですが、そこでの議論を整理してみたいと思います。
MTTに支払われているお金
記事があげているサンフランシスコ交響楽団からティルソン・トーマス関連へ流れているお金は(2005-2006FYで)、
- MTT Music(法人)へ1.6百万ドル
- コロンビア・アーティスツ・マネジメントへ約50万ドル
- KEEPING SCOREの制作会社へ約60万ドル
- その他にティルソン・トーマスへの報酬が約40万ドル
ティルソン・トーマスは、この他にもニューワールド交響楽団から約50万ドル、ロンドン交響楽団(金額不明)からも収入があると伝えています(年に2週しか振っていないから大した金額ではないと思うけれど)。
ビジネス・コンダクター
MTT批判の話がややこしくなっている理由は二つあって、一つはティルソン・トーマスにはMTT Musicという個人の会社があり、代表者がMTTのパートナーのロビンソン氏で、シンフォニーからはその法人にお金が支払われているという点。
これがティルソン・トーマスへの多額の支払いを目立たなくさせる方策なのではないかと批判しているのですが、本当にかくれ蓑に使うつもりだったら、よっぽど間抜けでない限り、MTT Musicなんて誰が見てもわかる法人名つけないでしょう。
ティルソン・トーマスが関わる全てにロビンソン氏もついてくることは事実で、ティルソン・トーマスとロビンソン氏は二人で一人カウントみたいなものだと思いますが、公私混同だと批判される材料になるという側面は否めないかもしれません。
記事ではこの法人への支払いの他に、ティルソン・トーマスの所属事務所であるコロンビア・アーティスツ・マネジメント(CAMI)への支払いもMTTへの支払いだと書かれていますが、この点に関しては、CAMIはサンフランシスコ交響楽団のツアーのマネジメントなどもやっているし、CAMI所属のアーティストもたくさん出演しているでしょうから、その主張は怪しい。
そして話がややこしくなっている理由のもう一つが、SFS Mediaの存在。従来のレコード会社を使うビジネスモデルであれば、レコード会社からティルソン・トーマスに支払われる金額は、サンフランシスコ交響楽団の帳簿には載らないので、問題にならない。
ところが、SFS Mediaは自主レーベルなのでサンフランシスコ交響楽団の売上になり、そこからティルソン・トーマスの取り分が支払われるので、開示されて皆に見える。なまじSFS Mediaが成功したことで、批判する人たちの格好の材料に。
KEEPING SCOREなんてティルソン・トーマスのプロモーションビデオだろと言われると、その通りではある。しかしながら、あれはそもそもプロジェクト用に資金を提供してくれたファンドがあって、別枠で調達したお金で制作したものだから、みんなのお金使ってプロモーションビデオ作ったという主張には論理の飛躍があるのだけれど、そんな話は普通知らない。
SFS Mediaの売上や制作費、ティルソン・トーマスの取り分などは説明する必要があるのかもしれません。新しい事業だし。
マエストロ高給批判
記事では、他のサンフランシスコの芸術機関や非営利団体を引き合いに出していますが、他のメジャー・オーケストラとの比較を全くしておらず、その点に関しては恣意的なものを感じます。
例えば、レヴァインがメトロポリタン・オペラだけで3百万ドル以上もらっているとか、ニューヨーク・フィルがマゼールに2百万ドル以上払っていると言われていることと比較して、
ティルソン・トーマスの1.6百万ドルは高いのか?
そもそもトップクラスのマエストロのギャラが釣りあげられ、オーケストラの経営を圧迫しているという話は、もう十数年以上前だと思いますが、コロンビア・アーティスツの支配に対する業界暴露本(題名忘れた)が出た頃から言われていることで、ティルソン・トーマスがサンフランシスコに来たときから、同じように高いギャラを払ってきたのだと思います。
裸の王様になる前に
記事を書いた人も「あなたはティルソン・トーマスはサンフランシスコの文化的な宝で、彼にそれだけの価値があると思うかもしれないが」と前置きしているくらいだし、記事が出たタイミング、意図的にスキャンダラスに書いているように読める点、記事中の数字の根拠も疑問がつくことから、この記事は無視されて終わるかもしれません。
それでも、疑問を投げかける声、不透明さを指摘する声が出てきたことは、チェック機能という点で評価できると思います。サンフランシスコ交響楽団は音楽だけでなく、存在そのものがみんなの支持と支援なしに成り立たないのであるから、こういう声が上がらないように説明責任を果たす必要があるのだと思います。
ティルソン・トーマスの政権が長くなってきたこと、成功によってMTT帝国の様相を呈してきつつある今、MTTは裸の王様になる危険と常に背中合わせなのだと思います。
サンフランシスコ交響楽団でティルソン・トーマスに意見できる人はいるのでしょうか?
今の好調を長続きさせるためにも、厳しい意見は歓迎すべき。
アドミニストレーションの人たちは意見しにくいかもしれませんが、ボードの方々にはぜひティルソン・トーマスに苦言を呈していっていただきたいです。
批判記事はこちら
The Day The Music [Subsidy] Died — Peskin to Take Symphony Off Dole
Business Conductor
(2008.12.7)