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MTTのモーツァルトピアノ協奏曲23番の弾き振りを聴く

40年ぶりにピアノ協奏曲のソリストをつとめ、弾き振りに挑戦するマイケル・ティルソン・トーマス。これは聴かねばなるまいて。

これまでの経緯については
MTTが40年ぶりのピアノ協奏曲への挑戦を語る

聴いたのは、4公演あるうちの後半2回(1/29,30)。プログラムは、前半がストラヴィンスキーの Octet とモーツァルトのピアノ協奏曲第23番、後半が同じくストラヴィンスキーのプルチネルラ。

プレトークでの話によると、Octet のシンフォニアの Allegro に入ったところの3つの音による動機とモーツァルト3楽章の最初の3つの音の動機が同じパターンだということでMTTはこの組み合わせにしたのだそう(他の人は、この2つを聴いて決して「同じだ!」とは思わないと思うけど)。もう一つのプログラムの狙いは、古典派と新古典主義を聴き比べること。

お客さんの入りは、2日とも非常に良かったです。

Octet

文字通りウィンドとブラスによる8重奏曲。男性陣8人が指揮者なしで演奏しました。プレトークでも指摘していましたが、2本のバスーンが印象的。ストラヴィンスキーはとにかくこの曲を客観的に演奏することにこだわったそうですが、その通りとてもクリアで完成度高く仕上がっていました。(この曲の最後の部分は、MTT作 Street Song に似ている。。。)

何が飛び出すか?弾き振り

セッティングは、客席に背を向けるスタイルではなく、普通のコンチェルトのスタイル。以前他の指揮者でこの曲の弾き振りを聴いたときは、立ったり座ったりで全くもって落ち着かなかったのですが、MTTはずっと座っていました(もっとも、やっていることは立ってるときと同じではある)。

いよいよピアノの入り。まずは常識的にテーマを弾くMTT。MTTのピアノは音が大きくありません。したがって、ところどころバランス的にもう少しピアノが前に出た方がよいと感じるところがありました。

ただ今回の主眼は、楽譜に書いてあるから弾くのではなく、今生まれたかのごとく弾くことにあるようで、風がサッと吹きぬけるかのような弾き方でした。

注目のカデンツァは、29日はほぼモーツァルトが書いたとおり。若干装飾音符を変えた程度でした。ところが30日。出てきたときから、観客の「ピー」という歓声に「おしっ」と応えていて何か起きそうな予感はしましたが、出ましたオリジナル!

80%くらいはベートーヴェン風だったのですが、途中「もう飛ぶまいぞこの蝶々」になってまた戻ったり、すごく長かったのですが、「あっ、終わる」と思わせてまた続けて笑いを取っていました。弾いているうちにどんどんボルテージが上がり、カデンツァが終わってオーケストラが入るところがものすごく決まった。このコンビ15年の蓄積の力だと思います。最後は1楽章が終わったとたんに、ハンカチを取り出して額の汗をぬぐってみせるというオマケつき(注:MTTは汗かかない)。

客席はやんややんやの大喝采でした。

そして2楽章のスタンバイ。会場に静寂が戻ったところで、MTTはやおら客席の方を向きヒトコト、

more challengeable

演奏は、その言葉のとおり、最初にピアノが出る部分は楽譜どおりなのですが、その後はモーツァルトの骨格だけ残して、即興的に弾いていました。29日は細かい音が多かったです。30日はショパンのノクターンみたいな雰囲気でした。楽章中でピアノの音が一番深くなる部分の和声は、2日とも違う響きに感じましたが、複雑な音を混ぜていました(その音以外は、アヴァンギャルドな印象は受けません)。静謐な雰囲気がよく出ていたと思います。

3楽章は、軽快なテンポ。ビデオで話していたとおり、オーケストラとの対話を楽しみ、弾ききっておしまい。

40年ぶりに弾くというからには、かなり準備しただろうし、何かはやってくれるのだろうと期待はしていましたが、ここまでとは!

枯れないというか、懲りないというか、この期に及んでもこういうことをやらかすメンタリティには恐れ入るばかり。

MTTはやっぱりどこまでもMTT。

KDFCで放送されるのは?

私が聴いた2日間は全然違っていましたが、最初の2日の演奏はどうだったのでしょう?

この演奏会は、KDFCで2月9日に放送予定なのですが、何日目が放送されるのか?ぜひ30日を選んでほしいです。

プルチネルラ

コンサートの最後は、ストラヴィンスキーのプチネルラ。プルチネルラと聞いて、今の MTT/SFS コンビにぴったりの曲だと思う方は多いのではないでしょうか。

アンサンブルの完成度という点でも、エレガンスさとリズムによるコミカルな感じの点でも本当にぴったりでした。歌手も良かったです。

Sasha Cooke mezzo-soprano
Bruce Sledge tenor
Eric Owens bass

メゾの Cooke は SFS デビューだったそうですが、とても実力があり、特に Se tu m’ami, のところが、オーケストラのカウンターメロディーのソロも秀逸で印象に残りました。

30日は、モーツァルトのMTTのカデンツァを契機にオーケストラが結束したこともあり、プルチネルラもノリノリ。終わったときに、とても良い演奏会だったなあとしみじみと感慨深かったです。

ところで、プルチネルラのとき客席の明かりが明るかったのです。アメリカでは、外国語の歌詞のある曲だと、みんなプログラム冊子の歌詞のページを開いて見るのです(この話は前にハイティンク&シカゴ交響楽団を聴くの記事にも書きました)。そして客席の平均年齢が高いため、暗いと見えない。したがって明るくするのでしょう。そこまでやるんだと思いました。演奏中に歌詞読んでいたら、聴くことに集中できないと私は思いますが、これも一種のところ変われば?

KEEPING SCOREのトートバッグをゲット!

画像の説明

今回デイビスホールに来て、SFS Storeで KEEPING SCORE のトートバッグを買いました。

MTT/SFSコンビについて、ウェブサイトで伝わる層は限定されるので、今年は実力行使(?)

このバッグ持って、クラヲタが集まる場所で出かけます!

(2010.1.30)