1.サンフランシスコ交響楽団が意味するもの
ティルソン・トーマス&サンフランシスコ交響楽団の活動は、彼らが掲げているとおり「21世紀のオーケストラはいかにあるべきか?」を追求するものです。
したがって旧来の常識にとらわれない彼らのこの姿勢は、音楽の方向性、レパートリー、観客への音楽の提供の仕方、地元の音楽ライフの質を上げることなど、彼らの活動の全てに貫かれています。
オーケストラの役割を考えるとき、ヨーロッパのように公的な援助の占める割合が高い環境であれば、伝統的なクラシック音楽を一定のクオリティで安定して提供することこそが最も求められることなのかもしれません。そうだとしても公的援助は削減傾向にあり、客席を見渡すと観客の高齢化は進行、活路をどこに見出すか難しい局面を迎えています。
他方、アメリカのオーケストラは主に民間の支援で成り立っているため、安定した演奏だけではもはやクラシック音楽への支持は得られません。オーケストラの存在意義を必死に社会にアピールする必要があるのです。そこで彼らはオーケストラの存続をかけて、幅広い聴衆に門戸を広げ、地域社会へ貢献するという方向によりシフトした活動を展開しています。
サンフランシスコ交響楽団はそうした中にあって、単なる芸術団体から「地元の音楽ライフの中心機関」への進化をめざして先頭を走っているオーケストラです。
彼らの音楽や活動は、とにかく明るくて楽しい。これは米メジャーリーグが球場に行くこと自体が楽しいとか、アップルのiPhoneが買うことも使うことも楽しくできているとか、そういうこととよく似ていると思います。サンフランシスコ交響楽団は、地元のお客さんと継続的な信頼関係を築き支持を得るために戦略的に考え行動しているのです。そこには日本でも参考にできることが多々あります。
また彼らを見ると、オーケストラの成功は、芸術と経営両面の成功、プラス地元の経済的基盤の3つが揃って初めて実現されるということがよくわかります。
そしてティルソン・トーマス&サンフランシスコ交響楽団の音楽と活動を知ることは、私たち日本人にとっても、どんなオーケストラが、どんな音楽を提供してくれて、またどんなスタイルで音楽を聴く機会を持てたら、より音楽を楽しむ生活を送ることができるのかを考えるきっかけを与えてくれるのだと思います。