音楽監督に求められるリーダーシップとは?
ティルソン・トーマス(MTT)は、オーケストラの音楽監督はかくあるべしという常識を変えた人なのではないかと思います。
かつては、芸術的な能力、音楽面でのリーダーシップが何よりも重要でした。
今でもそれが重要なことに変わりはありませんが、今はこれに加えて、そもそもクラシック音楽が人々にとって必要だと思ってもらうためのオーケストラのプレゼンスのあり方や、興味を惹きつけるプログラミング、社会にメッセージを発し、人々の共感を得て支援を集めること、教育活動への関わりなどの面でのリーダーシップが、強く求められている。
彼がこの点において見事な能力を発揮したことで、そういう人材が必要だと皆認識するようになってしまった。
だから、シカゴ響の音楽監督選びが難航しているのも、あのオーケストラを率いるに足る大物の絶対数が少ないという問題の他に、芸術面とオーケストラを社会的存在として引っ張っていける能力を兼ね備えた人でなければ、もはやトップオーケストラの座を守れないという危機感が根底にあって、人選に苦慮しているのではないかと思います。
アメリカのメディアで、ティルソン・トーマスを評したものの中に、‘彼のやっていることの中で、指揮というのは一部にすぎない’とか‘誰もMTTにはなれないが、彼から学ぶことはできる’といったものがありましたが、これらは皆この点を指摘しているのでしょう。
彼は、何だかさらりとしなやかなのですが、ビデオを見ると、そのリーダーシップには目を見張るものがあります。
オーケストラの皆さんに気持ちよくお仕事してもらいながら、あの徹底的にコントロールされた音楽をつくり出してしまうさまは、マジックみたいだし、クラシック音楽の未来を語る気迫には、気圧されます。
シカゴ響について、地元メディアの記事を見ると、、、
ハイティンク77歳!(60歳くらいで歳をとるのが止まったみたいに見える)も驚きますが、もっと驚くのは、オーケストラの内部だけではないメンバーからなる、音楽監督を選ぶための委員会があるということ(委員会設置会社の発想?)。しかも審議の過程が公開されたり、一般市民も意見を言える場があるらしいということ。シカゴ響はみんなのものなのですね。
(2007.2.23)