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音楽とテクノロジーの融合~YouTube Symphony 2011~

3月20日ユーチューブ・シンフォニー・オーケストラ2011のグランド・フィナーレを飾るコンサートがシドニーで開催されました。コンサートはユーチューブでライブ・ストリーミングされましたが、音楽とテクノロジーの融合による素晴らしいクリエイションです。

コンサートの最後では、ティルソン・トーマスから日本の被災した人々へのメッセージと演奏(シューベルトのロザムンデより)もあります。

コンサートは最初、MTTのしゃべりが多いですが、気にせず内容を見ていただきたい。デジタル・アーティストのアンドロイド・ジョーンズとサンフランシスコの Obscura Digital による、ホールの中とシドニー・オペラハウスの「帆」に映し出されるビジュアル・アート、そして Google/YouTube のテクノロジーが音楽と見事に融合しています。

演奏もオンラインで選抜して、1週間の練習でここまでできるとはびっくり(2009年の第1回と比較してずいぶん進歩)。

追記:世界189ヶ国33百万人が視聴

インターネット上のライブ・コンサートの最高記録だそう(MTTはU2を抜いたらしい)。
内訳:ライブ・ストリーミング11百万人、その後の24時間で19百万人、モバイル経由が約3百万人(3/25発表)→詳しくはこちらの記事  YouTube の発表

追記その2

  • プロフェッショナル・オーケストラはユーチューブ・シンフォニーから何を学ぶべきか?
    アメリカの大学で音楽家に起業家精神を教えている方の分析記事が面白い

プログラムと見どころ、曲ごとの開始時間のご案内

多岐にわたり、オーストラリア作品も組み込んだプログラミングは注目です。

コンサート前半

  • 3:17
    Berlioz, Hector (1803-1869) Roman Carnival Overture, Op. 9
    まずはオーソドックスに音楽を聴かせる。
  • 17:00
    Grainger, Percy (1882-1961) "Arrival on Platform Humlet" from In a Nutshell Suite
    オーストラリアの作曲家の曲で児童合唱が入る。ビジュアル・アートが見もの。
  • 21:42
    Bach, J.S. (1685-1750) "Toccata" from Toccata and Fugue in F Major for Organ Solo, BWV 540
    Cameron Carpenter, organ
    オルガン奏者の手元足元を見せるカメラワークに注目。曲・奏者・映像の3つが高い次元で揃っている。
  • 32:08
    Ginastera, Alberto (1916-1983) Two Movements from Estancia: Danza del trigo and Danza final (Malambo)
    Ilyich Rivas, conductor
    指揮者のお兄さんはベネズエラ出身の17歳(エル・システマではない)。音楽もパーソナリティもとてもしっかりしている印象。
  • 40:40
    Mozart, W.A. (1756-1791) Caro bell’idol mio, K562,
    Sydney Children’s Choir
    アカペラ曲をビデオのルネ・フレミングと会場の児童合唱が歌う。時差の関係でフレミングは遠隔地から生出演できなかったのだと思いますが、どうやったの?というくらい音楽のタイミングが合っている。
  • 47:00
    Britten, Benjamin (1913-1976) Young Person’s Guide to the Orchestra, Op. 34
    今回の音楽的成果がわかる。

休憩

  • 1:07:20
    ベルリン・フィルのホルンのお姉さん(で通じると思いますが、Sarah Willis。指導者として参加)が出演者等にインタビュー。デジタル・アーティストの紹介もあり。

コンサート後半 (その後編集されたため時間帯はずれています)

  • 1:27:33
    William Barton (1981-) Kalkadunga
    William Barton, didgeridoo;
    Timothy Constable (1981-) Suna
    Synergy percussion
    オーストラリアの民族音楽2曲。最大の聴きもののひとつ。ビジュアル・アートも素晴らしい。
  • 1:40:07
    Strauss, Richard (1864-1949) Vienna Philharmonic Fanfare
    金管のみの曲。指導者として参加したウィーン・フィルとベルリン・フィルのメンバーも加わった。サンフランシスコ交響楽団で修業し、目下斬新な活動を展開しているエドウィン・アウトウォーターが指揮。
  • 1:44:13
    Bates, Mason (1977-) Mothership
    今回のプロジェクトで委嘱した作品であり、シンボル的存在。即興演奏のソリスト4人(エレキ・ギター、ヴァイオリン、中国琴、ベース)もそれぞれの味を出し、曲にマッチした映像も加わって、MTTらしく“決まった”。
  • 1:59:00
    Mendelssohn, Felix (1809-1847) Violin Concerto in E Minor, Op. 64 Finale (Allegro non Troppo – Allegro molto vivace)
    Stefan Jackiw, violin, Ilyich Rivas, conductor
    若手2人が非常に健闘。プログラム的にもこれがあって良かったと思う。
  • 2:07:04
    Jacobsen, Colin / Aghaei, Siamak Ascending Bird: Suite for String Orchestra
    Colin Jacobsen and Richard Tognetti, violin
    イランの作曲家の曲を弦楽セクションだけで演奏。サンド・アーティスト(砂で表現する)の Kseniya Simonova が音楽に合わせてライブでクリエイション。こんなことができるなんて、音楽もアートも必見(最大の見もの聴きもののひとつ)。
  • 2:33:06
    Stravinsky, Igor (1883-1971) Firebird Ballet (1910) (Danse Infernale, Berceuse, and Finale)
    静かな部分の演奏とビジュアル・アートが素晴らしい。最後は盛り上ります。
  • 2:19:14
    (アンコール)シューベルトのロザムンデより
    ティルソン・トーマスから日本、ニュージーランド、オーストラリアで被災した人々へ向けてのメッセージがあります。さすが教育者と思わせる内容かつハートウォーミング。

****
ティルソン・トーマスがコンサートで話した中に、こうして多くの人々と音楽をシェアする手段を提供してくれたグーグル/ユーチューブに感謝しますというのがありましたが、本当にそうだと思います。どんなに力がある芸術機関であっても、芸術機関の力だけではここまでのことはできない。

シドニーのメディアのレビューを見ると、MTTのショウマンぶりにびっくりだったよう。私から見ると、MTTはトークやプレゼンスにエンターテインメント性をちりばめる一方、音楽は隙がなく、コンサート全体の完成度を上げることへの強い意思を感じました。MTTを見ていると、伝統的なマエストロの姿とは全く違うと思わされます。企画面のプロデューサーであり、同時に遂行される音楽・映像・演出などの全てを把握して一つにまとめ上げる指揮官でもある(徹底してそれをやるあまり、音楽だけでも勝負できる人に見えないところがまたMTTっぽい)。

プロジェクトは大きく前進し、新たな可能性を見出せたのではないでしょうか。

詳しい情報は

ユーチューブ・シンフォニー・オーケストラのウェブサイト
(3/14-20の各種イベントの様子も紹介されています)

メディアのレビュー

オーストラリア開催だと、メディア記事は少ない。

  • シドニー・モーニング・ヘラルド
    地元の受け取り方。乗り込んで来た北カリフォルニア3点セット(MTT、Obscura Digital、Google/YouTube) の“先をゆく”度にあっけにとられた面もあったよう。

ネットのコメントを見ると、20代と思しき男性から、シドニーのコンサートへ行きクラシック音楽に対する認識が変わった。非常にたくさんのインスピレーションをもらった、というのがありましたから、やはりやって良かったのだと思います。

このサイトの過去記事

(2011.3.23)