トップ>here
違う星に来てしまったニューヨーカー?
ニューヨーク・タイムズの過去記事に、サンフランシスコ交響楽団の評判を確かめに、サンフランシスコへ取材に行ったニューヨーク・タイムズの詳細レポートを発見。東海岸からやって来た評論家が、
「ここでは、こんなことになっています!」
調にいちいち驚いていて可笑しいです。1999年の記事でかなり古いのですが、ティルソン・トーマス&サンフランシスコ交響楽団の核心を伝えていると思うので、ご紹介します。
まずは驚きから
- コンサートホールには、ジーンズにスニーカーなどのカジュアルな格好をした若い人たちがたくさんいて、ホールが満員だ。まるで週末のマンハッタンの映画館のようだ。ここにいると、クラシック音楽の未来が明るいような気がしてくる。
- サンフランシスコでは、新聞までもがマイケル・ティルソン・トーマスのことをMTTと呼んでいる。
- ティルソン・トーマスは、サンフランシスコにパートナーとプードル犬と暮らしていて、そのライフスタイルが、ここではゲイやレズビアンのロールモデル(!)になっている。
- ティルソン・トーマスは、地元のジャズクラブで初めて聴いた歌手をシンフォニーのコンサートに呼んで、共演したりしている。
- どこのオーケストラも一番集客したいと狙っているものの失敗している、大学生や院生、若いプロフェッショナルなどをコンサートに呼ぶことに成功している。
- ファミリーコンサートのような気軽なコンサートもすごい人気になっている。
評論界でのMTTの評判
ティルソン・トーマスは、評論家の間では、過小に評価されてきたきらいがあるが、どっこいいろんな面で素晴らしく、いい歳のとり方をしたと書いています。
この過小評価の原因としてあげられているのが、舞台俳優みたいだというのと、指揮のアクション、若い頃の行い。やっぱり、、、
これらに関しては、多分に自分で蒔いた種かも。
決め手はやはりプログラミング
ティルソン・トーマスが幅広い観客を惹きつけることに成功した要因は、プログラミングにあると伝えています。
記事では、彼が組み合わせた例をいくつも紹介。
ベートーヴェンの「英雄」とか、ブラームスの交響曲第4番などのスタンダードなレパートリーを演奏し、観客にモダンだと思わせるにはどうしたらよいのか?
ティルソン・トーマスは、それらから発展した20世紀の音楽と組み合わせて提示することで、逆にベートーヴェンやブラームスがいかに進歩的であったかという発見が得られるようなプログラミングをしているのだと紹介しています。
“やりすぎ”や“自意識過剰”にならずに、お客さんに音楽を新鮮だと思わせることがいかに高度なことかと指摘していますが、その通り。
ティルソン・トーマスのトーク
演奏する前にティルソン・トーマスがちょこっと曲についての話をすることにも触れています。
"he gave the audience something tangible to listen for"
聴く際によりどころとなるものを提示し、それによってお客さんの演奏への惹き込まれ度合いに違いが生ずると書いています。
他のオーケストラへのアドバイス
記事では、ティルソン・トーマスの成功から他のオーケストラが学べることをあげています。彼から浮かび上がる音楽監督像とは、
優れた指揮者であることは仕事の一部に過ぎない。周りを動かし、教育し、作曲家、学校や他の機関などとも連携する、活動的な文化のリーダーであること。
地元の文化全体にわたる実質的な(ここがポイント)リーダーだということでしょう。
記事では、ヨーロッパからの巨匠をそのポストに押し頂いていたのでは、こうはならないのではないかとも指摘していました。
ストラヴィンスキーのフェスティバル
ニューヨーク・タイムズが取材したのは、ティルソン・トーマス&サンフランシスコ交響楽団が毎年行なっているフェスティバルで、この年はストラヴィンスキーがテーマでした。
プログラムについても詳しく紹介していますが、いつもながらここでしか聴けないような組み合わせが並んでいます。
最後に、ティルソン・トーマス&サンフランシスコ交響楽団コンビが提供しているものを体験すると、サンフランシスコ交響楽団がアメリカのオーケストラのどこにランクされるかとか、ビッグファイブ論議というのが的外れだとわかると結んでいます。
この記事から読み取れること
このニューヨーク・タイムズの記事は、初めてティルソン・トーマス&サンフランシスコ交響楽団の活動を地元で見た驚きをよく伝えていると思います。
私も「こんなオーケストラがあったなんて」と思いましたから(もっとも、この記事は、サンフランシスコ交響楽団が呼んで書いてもらったのかもしれないとも思う)。
記事で伝えていますが、ティルソン・トーマスが幅広い層から支持されたのは、小手先の注目集めみたいなものではなく、あくまで彼が蓄積してきた音楽の実力によるものです。
他方で若い人の支持という点においては、「MTT」という通称から始まって、音楽にもパーソナリティにも一貫した彼のスタイルがあるところが、「おっ」と思わせたのでしょう。
ティルソン・トーマスは、若いときから華麗なる経歴と天才と称された一方で、クラシック音楽の枠からはみ出た行動とか、個人的属性とか、かなりのインパクトがあります。
そこが元ヤンキーの言うことが、妙に説得力があって、若者を手なづけられるのと同じで、若者たちの共感を呼んだのかもしれません。
彼から学べることは多いですが、
まねるな、危険!
でもあるのかもしれません。
*この記事は、“MTT”で盛り上がっていたころのものなので、現在デイビスホールに行っても、若い人でごった返していたりはしません。普通にいます。MTTに関しても、今はお客さんの家族みたいな存在になっています。
記事はこちら
ANTHONY TOMMASINI
Published: June 22, 1999
CRITIC’S NOTEBOOK; A Pied Piper Lures San Franciscans to the Concert Hall
(2008.3.19)