絶頂を聴く
私が社会人になって自由にコンサートに出かけられるようになったとき、既にカラヤンもバーンスタインも亡くなっており、スター不在。どの指揮者もオーケストラも私の中では並列的な存在でした。
他方、例えばセル&クリーヴランドなどのかつて一世を風靡したコンビの録音などを聴いても、「すごい」とは思うものの、何か自分にとっては遠い感じがして、もっと聴きたいと思うこともありませんでした。そしてそういうコンビの絶頂時代を生で聴けた人をうらやましく思う一方で、自分たちの世代はそういうのとは無縁なのかとあきらめていました。
そして出会ったティルソン・トーマス&サンフランシスコ交響楽団。オーケストラを聴く楽しみが、指揮者とオーケストラのコンビネーションにあることを初めて実感しました。そして目の前でコンビの絶頂を聴けるということがこれほど楽しいとは思いませんでした。彼らが過去の黄金コンビと呼ばれたオーケストラと比べてどうなのかはよくわかりません。でも今世界中を見渡してみても、彼らほど指揮者とオーケストラがコンビとしての音楽を徹底してつくり上げているところはないのではないでしょうか。彼らは今、生で聴くことができるのです。
世界中にうまいオーケストラはたくさんあります。でもティルソン・トーマス&サンフランシスコ交響楽団の音楽は、どんなに能力がある指揮者でも客演では絶対につくることができないし、どんなにスーパープレイヤーを集めても、時間と信頼関係がなければつくることができないと思います。
実のところ、彼らが本当に今絶頂なのかは、私にはわかりません。私が彼らに気づいたのも昨年だったので(長いこと「なぜ、サンフランシスコ?」状態で放置されていた)、もしかしたらピークはもっと前だったのかもしれません。でも今ならまだ間に合うと思います。
ティルソン・トーマスの身上であるスポーティさは、これから歳をとれば表現できなくなるかもしれません(彼自身はメタボと無縁の体型でがんばっていますが)。その時には他のよさがあるのか、それとも終わりがくるのかはわかりません。
今しかないと本当に思います。好き嫌いの問題は残りますが、後悔しないためにも一度は生で聴くことをおすすめします。聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥(違う!)
(2007.7.18)