KEEPING SCORE

第6回 フロイトとバレエ

今回のテーマは、クラシック音楽が人間の感情をどう表現しているかです。このテーマは、KEEPING SCOREプロジェクト全体を通して、彼らが最も伝えたいことの一つです。

音楽の歴史がポリフォニーからハーモニーに発展し、まず和声の変化により様々な感情を表現したというところから話が始まります。最初は感情を表現する手段は主にオペラでしたが、ロマン主義以降、器楽曲でも多様に表現されるようになります。そして人間の感情は複雑だという認識が深まっていくのと平行するように音楽もどんどん複雑化していき、ベルクのオペラ「ルル」で頂点に達するという流れをたどります。

ティルソン・トーマスは、音楽は科学や社会などの変化を予言するかのように先駆けて発展してきていて、それがクラシック音楽を古典たらしめているゆえんだと考えているそうです。このことは「春の祭典」のドキュメンタリーでも語っていました。どう先取りしているのか、音楽とフロイトの足跡を対比させています。彼はこの辺りについて、マーラーをやるにあたりかなり調べたようで、非常に詳しいです。

番組では、ロマン派の作品の中で、ティルソン・トーマスが人間の感情をうまく表現していると評価しているバレエ「ジゼル」を紹介し、舞踊家のナタリア・マカロヴァにバレエにおける感情表現についてインタビューしています。

この「ジゼル」、MTT&LSOの録音を紹介していますが、フェアリーな空気感が素晴らしい。ティルソン・トーマスの「ジゼル」はいけます。世の中、力で圧倒するような演奏を志向する指揮者はたくさんいますが、フェアリーを追求している人は私は他に知りません。フェアリーのスペシャリストって超ニッチでナイス。
今回もいろいろな作品を聴いて、人間の感情について考えるという構成なのですが、ワーグナーについての部分はとりわけ興味深かったです。「たったそれだけ」で「そういう気分」にどっぷり浸らせることができる作曲家は、彼以外にはいないとあらためて思いました。

The MTT Filesも残すところ後2回。これからは、クラシック音楽が未来に向けて何ができるかという方向に話が進むそうです。楽しみ!

(2007.5.15)

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