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税金を使った日本のオーケストラの学校派遣事業を考える

事業仕分けの季節ですが、探しもので文化庁のウェブサイトを見ていたら、興味を惹くデータを見つけました。

それは、文化庁が採択するオーケストラの公立の小中学校への派遣事業の資料。平成22年度に派遣されたオーケストラは全部で22団体なのですが、そのうち、オーケストラの所在地の学校に派遣されたオーケストラは、なんと札幌交響楽団とテレマン室内管弦楽団の2団体のみ!

オーケストラの所在地が首都圏と大阪に多いことから、おそらく公平の観点で所在地をはずしているのでしょうが、オーケストラの移動には大きなコストがかかります(スタッフ含め70人程度、プラス楽器が大荷物、移動費は税金による負担)。

オーケストラのホームグラウンドである地域に密着した活動を後押しするためにも、特に地方のオーケストラは、活動の基盤となる地域に派遣されるべきだと思います。

平成22年度「子どものための優れた舞台芸術体験事業」(巡回公演事業)全338公演
各オーケストラの派遣先都道府県(私は初めて聞く名前のオーケストラもありました)

オーケストラ名 公演数 派遣先の学校数
札幌交響楽団 10 北海道7宮城県2秋田県1
中部フィルハーモニー交響楽団 18 宮城県7秋田県5青森県2岩手県1北海道3
東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団 18 栃木県3福島県4山形県1群馬県1埼玉県9
東京国際フォーラムエデュケーション・オーケストラ 13 埼玉県7福島県3山形県1群馬県1栃木県1
セントラル愛知交響楽団 14 千葉県6東京都2茨城県2山梨県4
群馬交響楽団 9 東京都3山梨県1茨城県2千葉県3
仙台フィルハーモニー管弦楽団 17 東京都2山梨県2千葉県9茨城県4
日本フィルハーモニー交響楽団 9 岐阜県2愛知県1神奈川県5静岡県1
東京フィルハーモニー交響楽団 20 神奈川県6愛知県6岐阜県2長野県1静岡県5
大阪センチュリー交響楽団 14 新潟県2京都府6石川県3福井県1富山県2
山形交響楽団 18 京都府8新潟県4富山県5福井県1
広島交響楽団 13 大阪府6三重県2滋賀県2奈良県2和歌山県1
名古屋フィルハーモニー交響楽団 9 大阪府2三重県1奈良県1滋賀県3和歌山県2
テレマン室内管弦楽団 18 大阪府6奈良県4和歌山県3滋賀県2三重県3
東京ニューシティ管弦楽団 18 島根県3山口県3広島県6岡山県3鳥取県3
関西フィルハーモニー管弦楽団 16 岡山県3鳥取県4島根県2広島県4山口県3
大阪音楽大学 ザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団 18 徳島県2香川県3愛媛県5高知県5兵庫県3
大阪フィルハーモニー交響楽団 14 兵庫県2徳島県6香川県3愛媛県2高知県1
神奈川フィルハーモニー管弦楽団 18 熊本県10福岡県4長崎県4
大阪交響楽団 18 長崎県5福岡県5熊本県5佐賀県3
東京ユニバーサル・フィルハーモニー管弦楽団 18 宮崎県4大分県5鹿児島県4沖縄県5
京都フィルハーモニー室内合奏団 18 大分県4宮崎県8鹿児島県4沖縄県2

どんな内容なのか?

では学校派遣のコンサートではどんな曲が演奏されているのでしょう?

申請書にオーケストラがあげた曲目で多いのは(資料があった20団体中)、

曲目 採用数
ビゼー/ 「カルメン」前奏曲 7
ブラームス/ ハンガリー舞曲第5番 7
ベートーヴェン/ 交響曲第5番「運命」より第1楽章 7
チャイコフスキー/ 「くるみ割り人形」より花のワルツ 5
シベリウス/ 交響詩「フィンランディア」 5
ヨハンシュトラウス1世/ ラデツキー行進曲 5
楽器紹介 14

学校ならではの企画として、

生徒の参加 採用数
校歌合唱 16
指揮者体験 12
ブラスバンド部共演 10
ポピュラー曲合唱 9
合唱部共演 7
ボディーパーカッション(含む手拍子) 5
創作への参加 4

昨年事業仕分けでオーケストラへの助成金がターゲットになったとき、削減反対の大きな理由は、学校訪問等の活動が子どもたちの創造性を育むものであるということでした。でもこれらのプログラムや「体育館」で聴くことが「創造性を育む」のか考えると難しい。

各団体のプログラムを見ると、伝統があるメジャーな団体ほど、毎年ずっとそれでやってきて、今年もそのまま出しました、みたいに感じられる内容でした。

面白いと思ったのは、東京国際フォーラムエデュケーション・オーケストラとテレマン室内管弦楽団。前者はラ・フォルジュルネ・オ・ジャポンのアウトリーチという位置づけで、ニューヨーク・フィルの教育プログラムを参考に、生徒に考えさせたり表現させたりすることに重きを置いたプログラム。後者はバロック音楽なので、学校で皆が学ぶリコーダーでバロックの曲を共演できる点が、学校教育とつながった形で取り組めて発展性がありそう。

現場で活動している方が苦労なさっていることも、一生懸命だということもわかりますが、「税金を使って派遣する」ということを考えると、オーケストラほどの規模でなくとも、地元のアーティストが地元の学校を訪問し、それを継続できる体制にすることが本来の姿だと思います。そしてそれは国ではなく地方がやることでしょう。

国がやるのは、むしろ教育プログラムの専門的人材を育成したり、内容やスキルをアップするためのハブとなることなのではないかと思います。

「子どものために優れた舞台芸術体験が必要!」と言われると、多くの人が100%同意でしょうが、まずは具体的にどういう内容なのか?国民が知って考えることが第一歩だと思います。

詳しくは文化庁ウェブサイト

*ご参考までに、サンフランシスコ交響楽団はオーケストラ単位の学校訪問は実施していません。日にちを決めてデイビスホールに複数の学校が来ます。

(2010.10.31)