ルポ貧困大国アメリカ
いろいろと考える素材を提供しています。一人でも多くの方に読んでいただきたい。
あまりにも悲惨な事例の数々に、クラシック音楽を語っている場合ではない!という気がしてきます。
登場するのは、サブプライムローンで破綻した債務者、医療費を払えず破綻した人、大学を出ても低賃金な仕事にしか就けず、学費ローンの負債だけ残った人、生活困窮から戦争ビジネスに巻き込まれる人など。
これらを招いたのが、行過ぎた市場原理の導入、極度の格差社会であるとしています。
本書を表面的に読んでいくと、過度の市場主義がもたらす弊害に目が行きがちですが、そもそも大量の移民を抱えて、なおかつ彼らに福祉を提供することが財政的に可能なのか?と考えると、答えはNOだと思います。では移民の流入をストップできるのかと考えると、これもNOのように思える。
結局この問題は、国家とは何か?ということと、国家の役割は何か?ということなのだと思います。
経済がグローバル化し、モノも人も資本も自由に移動する。そんな中で、従来からの国境があって、その中の国民を守る国家という枠組み自体が維持できなくなっている。それが顕著に現れたのが、世界から多くの人を受け入れ、市場原理を先んじて導入してきたアメリカなのだと思います。
本書では、アメリカの事例から学ぶ必要がある→そんな私たちのよりどころになるのは憲法だ→憲法9条を守ろうと論理展開していきますが、国家の枠組みが揺らいでいるときに、歯止めになるのが憲法なのか?私はちょっと疑問に思いました。アメリカだって憲法あるけれど、こういう事態な訳だし。
現代の状況では、従来からの「国家からの自由」「国家への自由」という始めに国家ありきの発想で人権を捉えるのではなく、国家の枠組みを越えて、人間本来の価値として一人ひとりの人権を現実に尊重していくためのスキームを構築する必要があるのかもしれません。
行過ぎた市場原理の歪を是正する必要はあるけれど、もはや一国の政治問題や経済問題と捉えるのでは、無理なような気がします。
ぜひご一読をおすすめする本です。