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ニュー・ワールド交響楽団の20周年記念シーズン・フィナーレ
いよいよ今回の旅のメインイベント。ニュー・ワールド交響楽団の20周年記念シーズンのフィナーレ、主たる卒業生20人も参加してのコンサートです。
会場のKnight Concert Hall
会場の明かりの灯り方がアメリカっぽい。リムジンで乗りつけるのが似合うようなホール。
ホールは満員のお客さん。ここは南国なので、ちょっと東南アジアに似たノリというか、人々がてきぱきさっさとしていません。したがって、皆が席につくまで時間がかかる。会場のアナウンスやパンフレットなども、英語の他に必ずスペイン語バージョンがあります。
オーケストラは、フェロー(在籍中の人)とアルムナイ(卒業生)総勢120名近い大人数です。
MTT登場
オーケストラ・メンバーのファッションは、黒いシャツに黒いパンツスタイルなのですが、MTTも同じ取り合わせで、上に黒いジャケットを着ています。
そして客席に向かって、お辞儀のかわりに敬礼。それも人差し指と中指の二本を立てて、くるっと手首を返す。何で敬礼なのかは知りませんが、それが出ると「今日は(も)ごきげん」ということがとりあえずわかる。これはヨーロッパへ行ってもやっています。
指揮棒を取るのかと思ったら、マイクを取り出し、「今日はシーズン・フィナーレで21人の特別ゲストがいます」から始まり、「本日のプログラムは、スペシャルなロシアのバレエ音楽です」うんぬんと紹介。しゃべり方がいつもより早口で、既にアドレナリンが相当出ていそうな予兆。
ステージ後方にも客席があるので、ときおり後ろも見回しながら話すところがMTTらしい。
「白鳥の湖」第3幕
1曲目のチャイコフスキー「白鳥の湖」第3幕について、「これ以上突っ込むと、物語の話で長くなってしまうから」ということで演奏へ。
スタンバイするMTT。このスタンバイがまた、足を開いて立ち、ひざを軽く屈伸するというMTTスタイル。
一瞬「Here we go!」と言ったのか、聞き取れなかったのですが、「それっ!」みたいな掛け声で演奏スタート。
掛け声とその次に出てきた音楽が、のっけから最大級のボルテージだったのに、やられた〜という感じでした。
MTTにはノリノリ絶好調バージョンがあることを忘れていました。
その後もMTT節(アクションも)炸裂。ワルツのふわっとした感じとか、リズミックなところが次々決まる。
「ロメオとジュリエット」を聴いたときも思いましたが、MTTはバレエ音楽を聴かせるのがとてもうまい。曲と曲の間の取り方が絶妙だし、次々と違うシーンを見せる劇の展開が、息もつかせず連続していきます。
オーケストラはアンサンブルが完璧だし、音もきれい。ソロの難所がいくつもあったのですが、皆見事にクリアしていました。
特にフルートは、何小節も難しいパッセージが続いて曲が終わるところがあるのですが、最後まで弾ききったら、すかさずMTTから「やった!」というアクションが入っていました。
圧巻は、ラストシーンに入る前の曲の終わりがものすごい集中力で決まって、シーンと静まった一瞬にMTTが「ラストシーン!!」と叫んで、次が始まったところ。
そのまま一気に突き進み、フィナーレ。
曲が終わった瞬間に、会場総立ちでした。
遥かなる巨匠への道?
こんなノリノリでお祭りみたいなクラシック音楽のコンサートは初めて。ニュー・ワールド交響楽団のコンサートって、いつもこうなのでしょうか?世の中の「MTTは巨匠の域に入った」と言ってくれる人たちのメンツを考えると、ここでこんなことをやっていることは伏せておきたいくらい。
今回のパフォーマンスを観て聴いて、さすがに私も「これのどこが巨匠だ?」と思いました。休憩時間に夫と大ウケ。MTTには、70になっても80になっても、ぜひ今のキャラでぶっちぎっていただきたいです。
話はそれますが、私はマイケル・ティルソン・トーマスという人は、デフォルトが8ビートなのではないかと思います。そしてポピュラーのミュージシャンみたいに、右足のつま先がカウントとるみたいに上がる。そこら辺りに、精緻に音楽が決まる秘訣があるのではないかという気がします。
「春の祭典」
プログラム後半は、ストラヴィンスキーの「春の祭典」
曲が曲なので、MTTもチャイコフスキーよりも緻密に振っています。
MTTのハルサイに関しては、MTT&SFS盤のCDも、KEEPING SCOREのDVDも何度も聴いたので、これまたあらゆるディテイルがインプットされている私。
出だしの個々の楽器が一つずつからまっていくところのバランスとか、「シャッ」という音がばらけて聴こえるかぶり方とか、そういうものは録音エンジニアの技量に負うところが大きいということと、KEEPING SCOREのMTTのアクションは、やはりカメラで撮るということを非常に意識した結果なのだということが、今回生で聴いてわかりました。
演奏は、個人技の細かいところで不安定なところはいくつかあったものの、アンサンブルは完璧に仕上がっていて、120人の若いパワーが圧倒的。
いつも思うのですが、MTTのハルサイは、第二部の始めから、いけにえが一人選ばれるまでの静かな部分の世界観みたいなものが、本当に素晴らしい。
ハルサイは曲が短いので、あっという間に「いけにえの踊り」に来てしまい、最後は大迫力でジ・エンド。
大喝采の後、今シーズンで巣立っていくフェローの紹介が、MTTから一人ずつあり、スペシャルゲストのアルムナイの方々も紹介されました。
アンコール曲は知らない曲だったのですが、これも紹介するとき、MTTは「ボーナス・ピース!」と言っていました。いちいちおかしい。
拍手がずっと続いていたのですが、最後はMTTの「お酒を飲む時間」ジェスチャーでお開き。
総括
ニュー・ワールド交響楽団の音楽は、予想していたとおりMTTらしい完成度の高いものでした。若者らしいストレートな元気さはありますが、メンバーは20台後半から30くらいの方がほとんどなので、とてもマチュアな印象を受けました。
日本人のフェローの方も何人かいました。彼らが学んだことを日本に伝えてくれたら、皆の視野も広がるのではないかと思いますが、彼らはきっと海外のオーケストラに入って日本には戻らないのでしょう。彼らが日本で活動することに魅力を感じる日が早く来てほしいです。
120名の若者たちとMTTの姿はとても清々しかったし、コンサートは本当に楽しかった。MTTは若者たちと音楽をつくる姿が似合います。ぜひこの道を全うしていただきたいです。
東京からマイアミまでの総移動時間を考えると、気が遠くなるような遠さですが、来てよかった!
(2008.5.3)
【追記】ボーナス・ピースは、これもロシアのバレエ音楽で、Gliereの「 The Red Poppy 」から「The Russian Sailor’s Dance」だったそうです(やっぱり知らない)。ロマン主義的なチャイコフスキーから始まり、30年後のロシア革命前に時代を先取ったストラヴィンスキーと来て、最後はソビエト時代の最初のバレエ作品を合わせて聴き比べる「スペシャルなロシアのバレエ音楽」という趣向だったようです。
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