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トマシェフスキーとは?~The Thomashefskys~
トマシェフスキー(The Thomashefskys)とは、指揮者マイケル・ティルソン・トーマス(MTT)の元々のファミリー・ネームで、祖父母ボリス&ベシー・トマシェフスキーが主宰していたニューヨークのイディッシュ・シアターの音楽と活動を現代に紹介するプロジェクトのこと。
プロジェクトの経緯
ティルソン・トーマスの祖父母は、ウクライナ出身でアメリカに渡ってきて、様々な作品を(ロシアものだけでなく、シェークスピアやホフマンスタールも)イディッシュ語で上演する、芝居と音楽のトマシェフスキー・シアターを主宰。劇場では、当時アメリカに渡って来た人々が新しい地でどうアイデンティティを確立するかなど、生活に直結した様々な問題もテーマに取り上げていた。祖父ボリスは、公演情報に加えてこうした問題を考えるニュースレターを発行、マスメディアが発達する前の時代であったこともあり、劇場は一種の文化フォーラム的役割を果たし、19世紀末から20世紀初頭にかけてニューヨークのロシア系ユダヤ人の求心的な存在であった(MTTの祖父の葬儀には3万人も参列者がいたそう)。
その後、移民がアメリカ社会に溶け込んでゆくにつれ、イディッシュ・シアターは役目を終え、トマシェフスキーの名前は、祖父の他界や祖母がロサンゼルスに新天地を求めたこと、ティルソン・トーマスの父が、両親の影があまりにも大きかったことから名前をトーマスに変えたことなどもあり、人々の記憶から消えた。
しかしながら、イディッシュ・シアターの劇や音楽のスタイルは、草創期のブロードウェー・ミュージカルに受け継がれ、ガーシュウィンなどにも影響。今日のアメリカ文化の源流の一つであるから、人々が歴史を知るとともに記録を後世に残して行かねばならない(MTTの主張)。
という訳で、ティルソン・トーマスは1998年にこのイディッシュ・シアターの活動と音楽を現代に紹介するプロジェクトを旗揚げ。ユダヤ研究の専門家とともに資料の整理と音楽の再現に着手。
幸い資料の方は、公演の記録や膨大な量のニュースレターをニューヨークのパブリック・ライブラリーが所蔵。他方音楽は、断片的な記録しかなく、ほとんどがティルソン・トーマスが子どもの頃に祖母やその仲間が歌ったり演奏していた音楽の記憶をもとに再現。こうした作業を経て、2005年にマルチメディアを駆使したエンターテインメント・ショー“The Thomashefskys”が完成。
ショーの構成
ショーはブロードウェーの演出家の手によるもので、ホストであるティルソン・トーマスの語りを中心に進行。オーケストラ(30人ほど)をバックに祖父のボリスと祖母のベシーそれぞれをミュージカル俳優が演じ、この他に若い頃の二人をクラシックの歌手が担当、映像や資料で当時を振り返りながら、ジューイッシュな音楽の世界を体験するという内容。
ティルソン・トーマスは台本書き、編曲・オーケストレーションをはじめ、語り、指揮、ピアノ、歌(+踊り)と活躍。観客参加型プロダクションで、一緒に歌ったり手拍子など多くの仕掛けがちりばめられ、笑いあり涙あり(?)で楽しめる。
プロダクションは毎回趣向を変えているとのことにつき、何が出てくるかは幕が上がるまでわからない。
ショーが伝えるもの
このThe Thomashefskysで整理した資料は、もちろんアーカイブとして大きな意義があります。しかしながらショーを観ると、純粋に歴史的な視点に立つというよりも、イディッシュ・シアターを通して、パフォーミング・アーツの役割や何が重要かということをティルソン・トーマスがどう考えていて(だからあなたはこうなのね)ということを知る機会であるという印象が強いです。
これまでの公演
- 2005年
ニューヨーク(カーネギーホール)、サンフランシスコ交響楽団、ニュー・ワールド交響楽団 - 2008年
サンフランシスコ交響楽団、シカゴ交響楽団、ロサンゼルス・フィル - 2009年
タングルウッド音楽祭(ボストン交響楽団) - 2010-2011シーズン(予定)
ニューヨーク・フィル、フィラデルフィア管弦楽団
(2010.3.1)
【追記】
トマシェフスキーは、2011年4月のニュー・ワールド交響楽団での公演でフィナーレを迎えました。ニュー・ワールド・センターの舞台を駆使したプロダクションはPBSテレビでの放映とDVD化が予定されています。