ストラヴィンスキー:春の祭典
KEEPING SCORE Revolutions in Music
やはりこの曲抜きには語れません。
ドキュメンタリー
ドキュメンタリーは、ティルソン・トーマスの旅と、パリでの初演のエピソードを中心に、音楽を第一部から紹介していく流れになっていて、バレエの映像も組み合わされています。
旅で訪れるのは、ストラヴィンスキーがリムスキー=コルサコフから作曲を学んだサンクトペテルブルグと民族的な歌や踊りのヒントを得たウスティルグ、作品が初演されたパリの3ヶ所。
ティルソン・トーマスの3大思い出話は、おばあちゃんの話、バーンスタインの話、そしてストラヴィンスキーをはじめとする、ロサンゼルスで学んだときの話ですが、今回、その貴重な経験と長年の探求の成果を披露しています。
ストラヴィンスキーがどのような教育や環境を経て「春の祭典」に至ったのか。どのような点が革新的なのか、ストラヴィンスキーが採用した音楽的素材やリズム、オーケストレーションなどを取り上げ、オーケストラ・メンバーによる演奏を交え、説明しています。
見どころは、シャンゼリゼ劇場でのスキャンダラスな初演の模様を紹介するシーン。バレエの映像も組み合わせながら、シャンゼリゼ劇場の客席や舞台裏から、ティルソン・トーマスが一人何役も演じて、初演の様子を再現してみせます。まさに劇場の家に生まれてきた面目躍如。
またストラヴィンスキーが用いた農村の民族音楽を紹介するシーンでは、地声の歌も披露。
テンポよく進むのであっという間の印象です。
ライヴ演奏
この映像の狙い
これは徹底的に魅せるつくりで楽しい。
次々と切り替わる映像、ぐるぐる回るカメラ、斜めの映像にも、見ているうちに慣れます。
これらの狙いは、ドキュメンタリーで説明した、どの音をどの楽器に割り振っているかとか、どの楽器のコンビネーションでリズムを形成しているのかという点を、映像を見ながら音を聴くことでリアルに感じとってもらうということ。
ここまでカットにこだわったオーケストラの映像は、他に見かけません。
魅せる演出では、第一部終わりのバス・ドラムの連打ソロからの部分が圧巻です。
ティルソン・トーマス&サンフランシスコ交響楽団コンビの「春の祭典」は、BMGから出ているCDがグラミー賞3部門受賞しており、音楽に限るとやはりDVDよりもCDの音の方が断然良く録れています。しかしながら、唯でさえも一糸乱れぬサンフランシスコ交響楽団の弦楽セクションが、集団となってものすごい勢いでオスティナートを弾いている映像をアップで見せられると、その迫力にはあ然となるばかり。
MTTも冗談かと思うくらいアクションを決めてきます。
音楽の魅力を伝える
演奏は、リズムの躍動感にあふれる高精度アンサンブルが繰り広げられています。 複数の楽器がからむバランスの一つひとつや音楽の解像度の鮮やかさにおいて、これぞMTTという手腕を発揮。
楽譜は、1913年版を使用。
そしてこのディスク、演奏の中身はもちろんなのですが、音楽の魅力を伝えるとはどういうことなのか?という問題にも一石を投じていると思います。
ミスター・アウトリーチを地で行くティルソン・トーマスが、クラシック音楽の魅力を伝えるために、何を見せ、話し、聴かせるのか?
クラシック音楽のアウトリーチ活動に関わるすべての方に、ぜひご覧いただきたいです。