トップ>here
サンフランシスコ交響楽団に見る助成金削減案への戦い方
サンフランシスコ市が慢性大赤字で、芸術への助成金カット案が出され、中でも規模が大きいシンフォニー、オペラ、バレエの3団体が標的になっています。
先日のティルソン・トーマスへの高給批判も、こうした助成金カット推進派の動きの中で出てきたもののようですが、この助成金カット案に対して、サンフランシスコ交響楽団はどう反撃しているのでしょうか。
まず、先日のMTT高給批判で取り沙汰されていた、約1.8百万ドルの特別枠の補助をなくす案の方は、今回は手をつけない方向に傾いてきた模様。ただし、これとは別に現在年間約82万ドルの助成金があり、これを半減する案が強硬に主張されています。
日本の感覚から見ると、やはり行政が負担する金額が小さいですが、彼らにとっては、金額が少なかろうと行政から芸術への支援があることが重要とのこと。
経営陣からの反論
サンフランシスコ交響楽団の経営陣は、プレスリリースや新聞取材に対するコメントなどで、積極的にシンフォニーの立場と自分たちの努力を主張しています。
サンフランシスコ交響楽団は、学校への無料の教育プログラムやコミュニティでのコンサートに年間約3.6百万ドルをさいており、これは行政から出るお金の額よりもはるかに大きいこと、助成金カットではそれらを維持できない可能性を強調していました。
やはりこういうときは高い芸術性うんぬんではなく、より身近なところへの貢献アピールで勝負なのでしょう。
オーケストラ・メンバーからの反論
今回一番驚いたのは、オーケストラ・メンバーも声を上げて反論していたこと。サンフランシスコ・クロニカルに投稿していました。それも具体的な数字を上げていて論理的なのです。
調査機関のデータを引用し、行政が1ドル投資するのに対して芸術機関は7ドルのリターンをコミュニティにもたらすとか、サンフランシスコには2008年1月現在で4837のアート関連ビジネスに29561人の雇用があるとか。毎週デイビスホールにやって来る人だけで約9000人がBARTやMUNIなどの公共交通機関や市の駐車場を利用するし、彼らは帰りに外食でもお金を落とすとか、そういう数字が並んでいるのです。
アメリカには、こういうときのために芸術がもたらす経済効果を調査発表している機関があるのだそう。知りませんでした。
調査はこちら。都市ごとに細かいデータが並んでいます。
Arts & Economic Prosperity III: The Economic Impact of Nonprofit Arts and Culture Organizations and Their Audiences
日本でもこういう統計があったら便利だと思いますが、日本の場合、東京に集中しすぎていて、都市ごとの数字にインパクトが少なそうなこと。海外からやってくるものの存在が大きすぎて、日本の芸術団体が生み出している経済効果の数字だけだと(芸術団体の雇用の効果なども大きく占めるため)、果たして助成金削減への反論の根拠になるような結果が出るかは、疑問でもあります。
弁が立つのはMTTだけではなかった
この投稿、ピッコロ奏者の女性が「サンフランシスコ交響楽団のメンバーとして、新聞記事を読んでの意見」として出されていますが、オーケストラの組合の意見を個人名の形で投稿したのではないでしょうか。
彼女(キャサリーン・ペイン氏)は、オーケストラのスポークスマン的存在らしく、昨年サンフランシスコ交響楽団がプロムスに出演したとき、BBCのプロムスの放送というのは、休憩時間にインタビュー・コーナーがある(先日NHKで放送していた2008年のラスト・ナイトでもありました)のですが、見事なトークでした。
個人として思っていることをただ話すのではなく、サンフランシスコ交響楽団が組織としてアピールすべきことをきちんと踏まえた上で話すのです。これは同じプロムスのトーク・イベントで金管メンバーが話をしたときも同様でした。
このオーケストラのミッションとか理念などの共有ぶりはすごい。きっと教育プログラムなどで、普段からそういうことを人前で話す機会が多いのでしょう。
サンフランシスコ市は、医療・福祉などが危機的状況らしく、芸術の旗色は悪いのですが、サンフランシスコの芸術団体の取りまとめをしている方も「ヘルスケアや公園と芸術が比べられることにはうんざり」と言っており、どこも同じなんだなと思いました。
削減案に関するサンフランシスコ・クロニカルの記事
Peskin would cut S.F. arts funding by 50%
オーケストラ・メンバーの投稿
Fly the flag on Jan. 20
(2008.12.12)