サンフランシスコ交響楽団で楽団員のストライキが起きるかもしれない
ここ最近のサンフランシスコ交響楽団で最も大きなニュースは、何をさておいても首席オーボエ奏者ウィリアム・ベネット氏の急逝でありました。良いニュースでは、2月にジョン・アダムズのCDがグラミー賞を受賞したことが挙げられますが、全体的には「なんか最近チャレンジ系の話題に欠けるなー」と私は思っておりました。
そこへ飛び込んできた、楽団員がストライキに突入するかもしれないというニュース。
「えー?まだ労使交渉が決着していなかったの??」
とびっくり。なにせ昨年11月の来日公演のときにも交渉中でしたから。2月中旬までは本契約がないまま暫定的に対処してきたのだけれどそれも切れ、今週ミュージシャン側が次の交渉(3月12日)でまとまらなかった場合は、ストライキに入ることを満場一致で可決。最悪は3月下旬に予定されている東海岸へのツアー(カーネギー・ホール、ケネディ・センターなど)の中止も想定される事態に。
今回の決議は交渉を進捗させるためのカードに過ぎないという見方もできますが、来週の公演の曲目はマーラーの9番。来日公演を聴いてファンになり、サンフランシスコへ聴きに行くことを決めた日本人もいらっしゃる中で、ストライキになってしまったらそういう方の気持ちを踏みにじることになるのではないかと心配です。
2013.3.13追記:3/19までにまとまらなかったらツアーをストライキだそうです。だからSFへ聴きに行く方はセーフのようですが、イマイチはっきりしません。
2013.3.14追記:結局ストライキに突入しました。14日のコンサートはキャンセル。
このニュースでもう一つ驚いたのは、交渉がもめている理由。経営が立ちゆかなくなってもめているのではない点。お金がなくてももめるけど、あってももめるというのが人間なのだなあとしみじみ思いました。
経営側からミュージシャンへ示されている条件の主なものは、複数年契約で初年度の給料据え置きと年金及び医療保障の条件変更。これにミュージシャンはNO!なのです。理由は、
- エグゼクティブの報酬は引き上げられ、ボーナスまでもらっているのに、ミュージシャンが据え置きとは不公平。
- 現状、アメリカン・オーケストラの報酬ランキングは1位LA、2位シカゴで3位がサンフランシスコ。サンフランシスコは全米でも特に生活コストが高く、公演数も多いため、これらの条件を加味すると、LA、シカゴに見劣りする。並ぶ水準になるよう要求(ミュージシャンが強調するのは、ティンパニのデイビット・ハーバードを来シーズンからシカゴ響にとられてしまう件。第2第3のデイブが出てもいいのかという主張)。
- 現在500百万ドル規模のデイビス・ホールのリノベーション&拡張計画が動き出している。そんな計画をぶち上げることが可能な状況なのだとしたら、ミュージシャンにだけ我慢を強いるのはおかしい。
デイビス・ホールのリノベーション計画はまだ正式発表はされていないのですが、以前サンフランシスコ・クロニクルに出た記事によると、教育プログラムの施設を合わせ持つ総合的な音楽の拠点をつくるということのよう。金額が大きすぎてびっくりですが、今ティルソン・トーマスがやろうとしているようなコンサートを実現するためには、デイビス・ホールはオーソドックスで制約がありすぎるというのもあるのでしょう。MTTはニュー・ワールドで実験やってるだけでは済まず、実践に移すつもりなのか。際限なくて恐るべし。
経営側の反論としては、ミュージシャンの給与はこの4年間ですでに約17%アップしており、それを考えれば初年度据え置きは必ずしも悪い条件ではないと。それも一理あるように感じますが、ミュージシャンの立場になれば、上記のような主張となるのでしょう。
その他この手の話になると必ず引き合いに出される、今やアメリカでも突出した数字になってしまった(ということは世界でも突出している?)MTTの報酬(2010年で2.4百万ドル)。
ミュージシャン側はこれを機に詳細な財務データを公に開示することも求めています。これはとても支持できる主張。私も本を書いたときに思いましたが、資金がどうなっているのか外からわからない点が多々あるのです。このニュースを伝えるアーツ・ジャーナルのブログへのコメントには、SFSメディアがどのくらい収益的にプラスなのかも開示せよという意見もありました。これもホントにその通り。
一連の動きを見てあらためて感じるのは、民間からの資金、みんなの応援で成り立っている組織を運営することの難しさ。労使交渉が円満に決着し、サンフランシスコ交響楽団が人々の支持を失わないことを切に願っております。
詳しくは
アーツ・ジャーナルのブログ
Grieving orchestra votes to strike
(2013.3.9)
アーツ・ジャーナルのブログ
マネジメント側の主張についての追報
(2013.3.10)