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サロネンのマルチメディア「トリスタンとイゾルデ」
2010年のルツェルン音楽祭の後半プログラムでは、エサ=ペッカ・サロネン指揮フィルハーモニア管弦楽団による、コンサート形式のワーグナー「トリスタンとイゾルデ」が注目公演でした。
これはピーター・セラーズ演出で、ビル・ヴィオラ制作の映像を組み合わせたプロダクション。どんなものが出てくるのか、とても楽しみにしていました。
結果は、サロネンは見事に期待に応え、オーケストラはおそらくこれ以上の出来はないであろうという演奏。オペラの可能性がまだまだ残っていることを感じさせるプロダクションでした。
ホールに足を踏み入れると、舞台上には大きなスクリーンがセッティング。黒い枠がどことなく巨大なiPadのよう。
衣装は女性陣歌手は黒いドレスでしたが、男性歌手、オーケストラ、サロネンは黒いシャツとパンツというスタイル。
前奏曲の間は映像なしで音楽だけを聴かせていました。映像は3幕を通して水をモチーフにしたもの。
3幕ともその「水」のモチーフは一貫していてテーマも共通しているものの、それぞれが抽象化されており、各幕は独立した映像のつくりになっていました。
演出はホール全体を使ったもので、歌手はメイン舞台の他、2階から5階までの舞台サイドの席を縦横無尽に使って歌ったり、合唱やオーケストラの別動隊も5階後方から演奏。また2幕ではトリスタンとイゾルデが1階平土間席の左右から現れ、近づいていくなど、空間をフルに生かしていました。
特に1幕最後は、金管や合唱が5階後方から聴こえ、歌手もオーケストラも圧倒的な音響だったため、これがホントのサラウンド。サロネンもありえないくらい決まっていました。
照明も色は一色なのですが、客席の明るさも含めて、様々に工夫してありました。
映像は、俳優(1幕と2幕で違う人)の映像を水と組み合わせたもの。1幕はアジアン(インド系)なイメージ。「純化」がテーマ。2幕のテーマは「光の主体の覚醒」で、ろうそくの光や炎と組み合
わせたもの。3幕は「自己の解放」(dissolution)。最後は二人が男も女もなくピュアに昇華していって、水と境目がなくなっていき、、、音楽も消える。
1幕2幕はスクリーンを横長に使っていましたが、最後の3幕は縦長に使い、昇華していく縦の流れを効果的に表現していました。
歌手は、イゾルデのウルマナはじめ盤石。オーケストラはできうる限りの最高の演奏だったと思います。サロネンはものすごい集中力で、全くダレることなく、オペラ指揮者に決してひけをとらないオペラでの統率力を見せていました。聴かせどころの表現は、響きの点でも細部の磨き方においても、本当に素晴らしかったです。
彼は52歳でまだまだ先があるから、一体どうなって行くのだろうか?
観客も最高に沸いていました。今までコンサート形式のオペラはたくさん聴いてきましたが、こんなに全てがクリエイティブなプロダクションは初めて。ルツェルン音楽祭がこんなだとは、やはり来てみないとわからないことがだくさんあります。アバドの映像で見えるものは一部に過ぎないということがよくわかりました。
想像をはるかに超えるプロダクションにびっくり!
おまけ
私は平土間の後方寄りセンターのとても良い席で見ることができ、我ながらそのチケットを買った根性に満足していたのですが、ななめ前の席が2席空いていたところ、2幕が始まるときにその席にMTTがパートナーのジョシュア・ロビンソンと2人でやって来た。2幕だけ見て帰りましたが、やはり映像と音楽の組み合わせには、並々ならぬ関心があるのでしょう。
私は後ろの列だったので、MTTの後頭部の髪の毛を観察しちゃいました。薄くなっている気配なし。良かった~~
【キャスト】
2010年9月10日ルツェルンKKL
Philharmonia Orchestra
Esa-Pekka Salonen, Conductor
Bill Vila, Visualization
Peter Sellers, Production
Gary Lehman, Tristan
Matthew Best, King Marke
Violeta Urmana, Isolde
Jukka Resilainen, Kurwenal
Stephen Gadd, Melot
Anne Sofie von Otter, Brangane
最初に人が出てきて何か話していた(ドイツ語わからず)ので、キャストに変更があったのかもしれません。私はウルマナとオッターはわかりましたが、その他は判別できず。
(2010.9.11)
【追記】
イゾルデがChristine Brewerから変更になっていました。このBrewerは、サロネンがロス・フィル時代にトリスタンをやったときに歌った方で、バイロイトでも歌っているイゾルデ歌いなのだそう(知らなかった)。ジンマンのグレの歌の方にはキャンセルせずに出演していました。