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ギルバート指揮ニューヨーク・フィルを聴く
2011年5月のグスタフ・マーラー100回目の命日を目がけて、今アメリカからニつのオーケストラがマーラー・プログラムを引っ提げてヨーロッパに来ています。一つはティルソン・トーマスとサンフランシスコ交響楽団。そしてもう一つがアラン・ギルバートとニューヨーク・フィル。ニューヨーク・フィルはトーマス・ハンプソンと組み、マーラーゆかりのオーケストラとして抜群の知名度とブランド力でヨーロッパでも強みを発揮中。
という訳で、マーラー・イヤーのヨーロッパでいろんなマーラー演奏を聴く第5弾は、アラン・ギルバート指揮のニューヨーク・フィルのべルリン公演(会場:フィルハーモニー)。
亡き子をしのぶ歌
コンサート前半は、トーマス・ハンプソンのバリトンで亡き子をしのぶ歌。
チケットを買うとき、Bカテゴリーを希望したにもかかわらず、Aカテゴリーのチケットが送られてきました。交響曲を聴くには近すぎると思ったのですが、5列目のセンターだったので、ハンプソンを聴くには絶好の位置。
ハンプソンは基本いつものハンプソンなのですが、近くで見ると本当に“スター”。今日は調子良さそうで、非常に完成度の高い歌でした。
オーケストラも素晴らしかったです。オーボエやホルンのソロも充実していたし、弦の響きもハーモニーの変化もくっきり浮かび上がっていました。
マーラー・イヤーにふさわしい演奏に仕上がっていたと思います。
マーラー 交響曲第5番
コンサート後半は、交響曲第5番。前半の亡き子が良かったので期待が高まる。
亡き子のとき、オーケストラ・メンバーが若いと思いました。年齢による差別が厳しく禁じられているアメリカでは、いかにして楽団の新陳代謝をはかっていくか、アメリカン・オーケストラが抱える構造問題の一つと言われています。
交響曲になって人数が増えてみると、やはり特に若いわけではなく、いつものアメオケ的風景。
出だしのトランペットは、一番高い音で少しヘロッとなっていました(そのダメージか、1楽章終わりのミュートで入る三連符もヘロッとなった。一楽章の終わりって、結構プレッシャーがかかる箇所なのだと思います。トランペットはその後持ち直していました)。
昨日ゲヴァントハウスで衝撃的だった、「バシャーン!!」という響きはやっぱりしません(救われた気分)。今回初日に聴いたベルリン・フィルと比較すると、低弦の響きがやや薄め。
1楽章は遅めのテンポで重量感がありました。ギルバートは無理なことはせず、どれも納得できるもの。1楽章と2楽章の間は汗をふいたりして、普通に間をあけていました。2楽章は特に目立った特徴はなし。3楽章でホルンのメンバーが席を入れ替わっていました。3楽章のホルンのソロは安定したもの。
4楽章の弦が凝ったことはやらないのですが、美しかったです。
5楽章は特に何も起きず進んでいったのですが、最後金管がメロディーを歌った後のコーダの追い込みと盛り上げ方が非常にうまかった。いっぺんに目が覚めるように惹き込まれました。
ギルバートはどの部分の解釈をとっても、新しい発見があるというより、そういう風に演奏した人は過去にいただろうと思わせるものなのですが、先人の良いところを採り入れて、その延長線上で自分なりの表現に磨きをかけているように感じました。不自然なことはせず、盛り上げるところもはずさない。手堅く完成度を上げてくる。
この人はものすごく優秀で優等生なのだと思います。そして彼は反感を買うということがなさそう。そのあたりも楽団の人たちに好評なゆえんなのではないでしょうか。
ニューヨーク・フィルを聴いたのは、去年ヤング・ピープルズ・コンサートに行ったのは置いておいて、2008年のマゼール指揮の定期公演以来。私が思うに、巨匠指揮者は一つひとつ積み上げて音楽をつくるのではなく、20%くらい余白があるのだと思います。その20%がごくたまに良い方に転ぶと、積み上げ型ではなしえない名演になる。でもめったに起きないから、ギルバートのような若手で積み上げていった方が確実な成果になるのではないかと思いました。
マーラーでもアンコール
今日はアンコールもありました。マーラーの後にアンコールがあるのは初めての体験(ティルソン・トーマスはツアーであってもやらない)。
しかもバーンスタインのロンリー・タウン パ・ドゥ・ドゥで、ブルース調。
観客にウケていましたし、ニューヨーク・フィルの良さが感じられて良かったです。
ところ変われば
今回約17年ぶりにベルリンに来たので、非常に新鮮でした。ドイツも今やいろんな点であか抜けていてびっくり。
バウハウスのデザインのミュージアムに行ったのですが、フォントに関する展示をしていて、地下鉄やバスの表示の文字が非常に考え抜かれたものであること、ドイツ的美意識とはどういうものかをのぞき見ることができました。
フィルハーモニーで面白いなと思ったのは、出演ソリストのサイン会が休憩時間にあること。ハンプソンなど、休憩時間にさばけるのか?という行列ができていました。
コンサートが終わる時間に出口の前に花売りやらプリッツェル売りがやって来ていて、結構買っている人がいたのも面白い。一番キョーレツだったのは、コンサート開始前にアジア系のおばさんが連日「タダのチケット求む!」と書いた紙を持って立っていたこと。アバドの日にも客席にいたから、ほぼ100%チケットをゲットできるのでしょう。名物オバサンなのかもしれませんが、考えてみればグッドアイディア!
(2011.5.19)