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オーケストラがコミュニティの一員になるということ

ティルソン・トーマスはサンフランシスコ交響楽団の音楽監督になったとき、サンフランシスコに当地の建築様式で建てられた家を買ったそうです。彼がこのことについて地元紙のインタビューで、「オーケストラがコミュニティの一員になるためには、自分もコミュニティの一員になる必要があり、そのために家は重要だと思った」というようなことを答えているのを読んだことがあります。

私はこの話がベースにあったためか、4月に金沢の21世紀美術館でオーケストラ・アンサンブル金沢の井上道義音楽監督のトークイベントに行ったとき、彼の口から

「東京に帰らなければならないので、時間がない」

という言葉が出たのを聞いてショックでした。その時彼は、翌日午前中から次の仕事のリハーサルがあってやむを得なかったのですが、

「東京に帰る」

という言葉が、何か(音楽監督であっても)「金沢は本拠地ではない」と言っているようで、これを聞いた地元の方はどう感じるのかな?と思いました。オーケストラ・アンサンブル金沢は公演数が多くはないので、実際に金沢に住むのは無理でしょうが、地元のファンに配慮した別の言い方があったのではないかと思います。

こういう地元の人目線とか、ちょっとしたお客さんとのコミュニケーションということを、ティルソン・トーマスは非常に意識していると思います。

例えば、お客さんになじみがない曲を取り上げるときにちょこっと曲についての話を加えるとか、コンサート中に客席がふっと和むようなことを何かするとか。ウィーンではドイツ語で、プラハではチェコ語で客席に向かってスピーチしていました。あまたの来日公演がある中、日本語でお客さんとコミュニケーションしようとするのは、オペレッタが日本語でギャグをかましてくるくらいなのではないでしょうか。

多分こういう積み重ねが、お客さんに受け入れられることにつながるのでしょう。日本のオーケストラも常任ポストの条件として、「日本に生活の拠点を設ける」ことと「日本語をマスターする努力」を必須項目にすればいいのにと本気で思います。それくらいの条件を出しても当然なくらい、日本のマーケットはプレゼンスがあるのではないかと思います。

それがいやな「ビッグ」「スター」「巨匠」の方々には日本以外でご活躍いただき、日本は日本の若手に「3年間は途中でガタガタ言わない」「プログラムと人選の全面的な権限」付でチャンスを与えるくらいのことをした方が、オーケストラにも観客にもプラスになるのではないでしょうか。もうそういう段階に来ていると思います。

(2007.8.5)