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アバド指揮ベルリン・フィルを聴く

MTT/SFSコンビのウィーン公演を応援すべくヨーロッパへ。まずは他のオーケストラをいろいろ聴いてみようということで、第一弾はクラウディオ・アバド指揮のベルリン・フィル。

オンラインでのチケット発売の日に、椅子取りゲームが極端に弱い私は案の定どんくさく、あっけなく敗退(そもそもの売りに出た枚数が少なかった上に、ものすごい勢いで売り切れた)。

後は当日がんばれよということになったのですが、年に一度のアバド登場の日は難易度が高いといろんな人に言われ、不安いっぱい。とにかくチケット窓口が開く前に行けと教えてもらって、11時オープンのところ10時半過ぎにフィルハーモニーに到着。

結局、その日の一番乗りで110ユーロの席が1席あったため、チケットを買うことができました。涙がちょちょ切れるほどラッキーで、クレジットカードの暗証番号を押す手が震えました(おめでたい)。

フィルハーモニー

と言う訳で、張り切ってコンサートへ。席は平土間Aカテゴリーの右5列目。

私はアバドがクラシック音楽界で「神聖ニシテ犯スベカラザル」存在になって以来、生で聴くのが初めてだったため、一体どんななのかとても楽しみにしていました。

結論から言うと、アバドはやっぱりアバドでした。

コンサート前半

コンサートの前半は、ソプラノのアンナ・プロハスカを迎えて、モーツァルトのVorrei spiegarvi, oh Dio – Ah, conte, partite KV418 とベルクのルル組曲(2番から5番)。

プロハスカはルルを意識した真っ赤なドレスに腕輪、ヘアスタイルも少しアバンギャルド風。歌は、発展途上中の人という印象でした(モーツァルトのアンコールに魔笛のパミーナ  Ach, ich fühl’s, es ist verschwunden を歌ったので確認できた)。

オーケストラは、モーツァルトでソロ・オーボエを立たせて演奏していたのですが(Lucas Macias Navarro)、きれいで効果的でした。今日のコンサートマスターは樫本大進ではなかったのが少し残念(彼は来週の佐渡要員なのでしょう)。

ルル組曲はドラマ的展開をあまり感じさせず、素直な演奏でした。

コンサート後半

コンサートの後半は、まずポリーニをソリストに迎えてモーツァルトのピアノ協奏曲第17番(KV 453)、そしてマーラーの交響曲第10番アダージョ(クック版)。

ポリーニは病気により(病名その他の詳しい情報は明らかにされていないもよう)4月のアメリカ・ツアーをキャンセルしました。舞台に出てきた姿を見ると、髪が真っ白でアバドと並ぶとアバドの髪が黒く見える(アバドの方が9歳年上)。

ピアノは指はまわっているものの、真珠のように粒が揃っていたりはしません。どことなくお年寄りが童心に戻っているかのような風情で自分の世界に没入するので、オーケストラとのやりとりがない。年齢を重ねたことで味わいがあるかと言えば、それも特に感じない。

私は彼が今こうなっているということを全く知らなかったので、かなりショックでした。

彼がピアニストとしてのキャリアを全うしてきたことに対して敬意は表しますが、音楽家(音楽家に限らないが)が年齢を重ねても成長し続けるということがいかに難しいか、あらためて考えさせられました。

コンサートに来る前は、アバドとポリーニが並んで立っているのを見たらどんなにか感激するだろうと思っていましたが、痛々しかった(お客さんはものすごい歓声でしたが)。私は5月17日のポリーニのリサイタルのチケットも買ってしまっているのです。ショパン等の超有名曲が並んでいますが、聴くのが恐ろしい。

ここまで聴いて、この調子でコンサートが進むと、なんか締まらない?と思うと、最後のマーラーに期待がかかる。

アバドはルツェルン・フェスティバル・オーケストラの映像など見ると、いろいろな工夫がある意欲的な演奏ですが(最近ブルーレイを見た巨人の演奏は素晴らしかった)、ルツェルンは音楽づくりをする時間が十分にあるのでしょうか?それともルツェルンという場がそうさせるのか?

今日のアダージョは素直な演奏でした。精神のギリギリの際をのぞき見るみたいな感じはしなかったです。

ベルリン・フィルは各奏者に表現意欲があって、ソロも(あたりまえだが)べらぼうにうまい。一番印象に残ったのは、モーツァルトの2楽章のフルート、オーボエ、ファゴットのアンサンブル。見事でした。また私の席からだと、コントラバスの音色の素晴らしい深みがよくわかりました。

それにしても、会場は盛り上がっていました。日本人も相当数見かけましたが、本当に全ての席が埋まっていたし、拍手も聞いたことがないくらい“割れんばかり”。みんなブラボーを言いに来ているのでしょう。

アバドが元気なことを確認できた。それが最大の成果だったと思います。

(2011.5.14)

*5月18日の「大地の歌」は他のチケットを買ってしまっていたので、聴きに行きません。