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よくある質問

アメリカ追随の価値観は時代遅れではありませんか?

2008年の金融危機以来アメリカ型資本主義の問題点も見え、アメリカのシステムが万能ではないことがわかった今、アメリカのオーケストラに注目することは、時代遅れのアメリカ追随主義、と思う方もいることでしょう。

確かに彼らのシステムには、長所も短所もあります。

しかしアメリカのオーケストラは、日本よりもはるかに多様化した社会、日本のようにクラシック音楽が高尚だと崇める風調もない中で、現代におけるオーケストラの存在意義とは何かを模索しながら、“クラシカル”が生み出せる“新しい”価値に挑戦しています。

このチャレンジの急先鋒に立つのがマイケル・ティルソン・トーマスであり、彼が率いるサンフランシスコ交響楽団なのです。

そのチャレンジをウォッチすることは、私たち日本人がどういう自分たちのオーケストラを持ちたいか?を考えるにあたり、多くの素材を提供するものであると考えます。

マイケル・ティルソン・トーマスはゲイだと聞きました

はい、そうです。

彼は、クラシック音楽の世界で自らゲイであることを公表して初めて成功したアーティストだと言われています(本当?)。

彼のパートナーは、30年以上にわたるプライベート、ビジネス両面のパートナー。二人で「マイケル・ティルソン・トーマス」というアーティストをつくってきたと言えます。

サンフランシスコではパートナーが異性か同性かで扱いに差はありません。

新聞記事はじめ、あらゆる公的な場にもカップルで登場。

MTTがパートナーと犬と暮らすライフスタイルは、サンフランシスコのゲイのロールモデルだそうですが、この二人を見ていると性的役割分担の思想って、単なる思い込み?という気がしてきます。

サンフランシスコ交響楽団はビッグ5に比べてどうですか?

質問です。ウィーン・フィルとベルリン・フィルはどっちがうまい?

おそらく答えられる人はいないでしょう。

なぜならそれぞれの個性があって、それはどちらが上かというものではないからです。

それなのになぜ、アメリカのオーケストラには順位をつけたがるのでしょう?

彼らは都市ごとに全く違うマーケットで各々特徴をもって活動しています。仮に同じ日に同じホールで同じ曲を演奏したとしても、容易に結論は出ないでしょう。彼らはそれくらいハイレベルです。

議論することは無意味です。

*もっとも、ソロ・パートの技巧を比較した場合、サンフランシスコ交響楽団は、スーパープレイヤーが揃っているシカゴ響などよりも聴き劣りがするパートがあることは否めません。サンフランシスコはアンサンブルで勝負しているオーケストラです。

【追記】その後、サンフランシスコはプレーヤーを強化、聴き劣りがするパートは、限りなくゼロに近い状況になっています。

バーンスタインの弟子以上のものがあるのですか?

昔聴いた演奏は、印象に残っていない。マイケル・ティルソン・トーマスと言えば、バーンスタインの弟子だということしか思いつかない。

こう思う方は多いかもしれません。

マイケル・ティルソン・トーマスが、バーンスタインと比較されることから逃れられることはおそらくないでしょう。

これは、彼の活動がバーンスタインの遺志を継ぐということを強く意識しているように見受けられること、また彼自身もバーンスタインの思い出話が好きということも一因でしょうから、彼自身がこのことは引き受けていると言えると思います。

バーンスタインを継承しつつも、サンフランシスコ交響楽団でのマイケル・ティルソン・トーマスは、ほとんど構想30年状態の自分がやりたかったことを次々と実行に移しているようなものです。

彼のこれに賭けるエネルギーと時間は執念みたいなものだし、これにサンフランシスコ交響楽団の団結と地元の応援がくっついているので、出てくるもののパワーがそれまでの活動とは比較になりません。

したがって、昔聴いたマイケル・ティルソン・トーマスの演奏と今の演奏は、基本路線は変わらないものの、完成度も演奏の“気”も全く違うと考えてよいでしょう。

MTTは現在、今までの軌跡が結実し、まさに“人生の収穫期”です。

ティルソン・トーマスには、なぜ軽いイメージがつきまとうのでしょう?

現在、マーラーの録音やKEEPING SCOREを聴いた方を中心に、今までのマイケル・ティルソン・トーマスへの先入観は何だったのか?と自問する声が上がっています。

彼の見かけから受ける軽い印象は、MTT自身が招いた品質誤認惹起表示(?)の結果でもあるので、致し方なかったのだろうと思います。

もっともこの軽く見られたことも、MTTが誰よりも精進を続けられた原動力の一つでしょうから、むしろ良かったのかもしれません。

今は年齢が60を越えたこともあり、年相応。彼に抵抗感を持っていた人にも、受け入れやすくなっているのではないでしょうか。

もう一つの軽く見える原因と思われるアクションの方は、今も健在ですが、これはもうご愛嬌のうちでしょう。

とにかくマイケル・ティルソン・トーマスを体験する際に、一番忘れてはならないことは、途中で「おいおい、こんなこと言っちゃってるよ」とか、アクションに「んま!!」と思っても、そこで即断しない。まずは彼の言っていることとやっていることの全体を見てみるという、俯瞰する姿勢だと思います。

サンフランシスコ交響楽団が、こんなことになっているとは知りませんでした

もしあなたがこう思ったとしても、それは当然のことです。

なぜなら、彼らは日本のマスメディアにほとんど登場しなかったからです。

なぜか?

それは彼らがここ10年来日せず、CDも自主レーベルで出していること、そしてクラシック音楽メディアのアメリカ情報はニューヨーク発だからです。

彼らの活動が、日本のクラシック音楽マーケットのビジネスモデルに引っ掛かる部分が極端に少なかったことが原因と考えられます。

アメリカのオーケストラは大味ではありませんか?

大きな音でバリバリいう金管、派手で大味。

アメリカのオーケストラへの根強いイメージでしょう。

しかしながら、来日するアメリカのオーケストラの数もCDの新譜もめっきり減って、日本人が「アメオケの今」から遠ざかっている間に、彼らは随分進化しました。アメリカのオーケストラに対して今もこうしたイメージにこだわることは、日本といえばゲイシャと言っているのと同レベルと考えてよいでしょう。

マイケル・ティルソン・トーマス&サンフランシスコ交響楽団の音楽を聴けば、今まで聴いたどのオーケストラよりも繊細、パワー重視の演奏とは程遠いと感じるはず。

(2010.10.14改訂)