トップ>here
これからのライブの方向性を提示している“アンサンブル・ジェネシス”
アンサンブル・ジェネシスによる組曲~現代における舞曲~
というコンサートに行ってきました。
興味深い内容でしたのでご紹介します。
→プログラムもしおり形式になっている。
アンサンブル・ジェネシスは鈴木優人氏を音楽監督に、チェンバロ/オルガン、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、リコーダー/サックスの5人のメンバーによる若手演奏家のアンサンブル・グループ。
古楽も現代音楽も縦横無尽に演奏するのですが、私が面白いと思ったのは、今後クラシック音楽のライブが進むであろう方向性を体現していた点。
その方向性は3つ
- 即興性(そこでしか体験できない)
- 演奏空間の多様性
- 映像とのコンビネーション
会場はヨコハマ創造都市センターで、音楽専用ホールではなく演奏者と観客が同じフロア。正面の演奏スペースだけではなく、後方に設置したオルガンや、奏者が観客席の外からとりまくように演奏したり、曲の途中で場所を移動するなど、様々な仕掛けがありました。
またメンバー全員が古楽を勉強したこともあり、即興演奏のウェートが高い。バロック曲でも現代曲でも観客との対話という点で、即興性が非常にプラスに働いていたと思います。
そしてビジュアルアートとのコラボ。鈴木氏はかねてよりビジュアルアートとのコラボを重ねてきたそうで、今回もライブで音楽に合わせて、抽象的な絵が動いていました。
この音楽と映像とのコンビネーションは、よく「そんなことやったら音楽を聴く妨げになる」と言う人が出ますが、今方々で試されているのは、具体的な何かがすぐわかるようなものを見せるのではなく、一見して何だかわからない抽象的なアートを背景的に見せるということ。イマジネーションを広げたり、インスピレーションを与えるという点で、実験しがいと可能性があると思います。
演奏された曲で特に印象に残ったのは、プログラム最後に演奏したギリシアの作曲家タナシス・デリギアニスの新作「ハルピュイア」。奏者が演奏しながらセリフを言ったり(叫ぶ)、場所を移動しながら演奏したりするのですが、この作品には映像がなかったにもかかわらず、セリフの吹き出し付きで画像が飛び出てくるように感じました。
奏者と観客との距離が近くて、とても手づくり感のあるよいコンサートでした。
メンバーの鈴木優人氏は1981年生まれ。鈴木雅明氏のご子息だそうで、私は姿を見ていて“第三世代”だなあと感じました。オランダ生まれで小さいときから一流の音楽と音楽家が身近に普通にいるインターナショナルな環境で育っている。だから気負いやてらいがなくて“軽やか”。
彼を見て、日本におけるクラシック音楽の未来への突破口になりそうな人が「ここから出てきたか」と感慨深かったし、またそれが必然に思えるのでした。
今後が楽しみです。
コンサートの記録
2010年11月14日 ヨコハマ創造都市センター
プログラム
テレマン 四重奏曲TWV43g4
小出雅子 「5人でまにまに」(初演)
即興演奏 パッサメッツォ・モデルノによるパヴァーヌとガイヤルド
新垣隆 インヴェンションまたは倒置法第2番(初演)
ヴィターリ パッサカリア変ホ長調→ホ長調
スウェーリンク 「大公の舞踏会」
鈴木優人 アポカリプシスⅤ
ブクステフーデ パッサカリア(鈴木優人編曲)
デリギアニス 「ハルピュイア」(初演)
アンサンブル・ジェネシス
鈴木優人 チェンバロ/オルガン
山口幸恵 ヴァイオリン
アンドレアス・ベーレン リコーダー/サックス
川久保洋子 ヴィオラ
懸田貴嗣 チェロ
アートディレクター 田村吾郎
私は参加しなかったのですが、コンサート前日の13日には、出演者、作曲家、アートディレクターによる創作についてのワークショップも開催されていました。
(2010.11.15)