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お若いのがお好き? ~世代交代が進むアメオケの音楽監督の役割とは~
グスターボ旋風が最大瞬間風速の記録を大きく更新したアメリカのオーケストラ界。
この景気後退期に28歳のグスターボ・ドゥダメルへの人々の熱狂を目のあたりにし、若手指揮者に楽団の未来を賭けたいとするオーケストラの動きは活発化するばかり。これに対して、いわゆる巨匠勢は、高給へのバッシングがいたるところで繰り返されるわ、目立つレヴァインが脊椎の手術で公演キャンセルだわで旗色が悪い。
若手への秋波にはもちろん、実力のある若手がたくさん出てきているという理由もあるのですが、特にアメリカのオーケストラで若手音楽監督へのニーズが高まっている理由は、
- 聴衆開拓において若年層へアピールできる
- 音楽監督のコスト高の問題を緩和できる
要するに民間からの資金で成り立っている構造が大きく影響しているということでしょう。
目下最大の注目は、ファラデルフィア管弦楽団がこの流れにのって若手に託すかどうか。経営トップの人選や財政危機のすったもんだを乗り越え、過去の栄光よ再びは悲願と化しつつある模様。
それはさておき、確かに今シーズン新たに若い音楽監督を迎えたオーケストラからは、いろいろと意欲的な取り組みが出ています。
- グスターボ・ドゥダメル(28歳、ロサンゼルス・フィル音楽監督)
- Dudamel Fellowship Program (若手指揮者への教育活動)
- YOLA Expo Center Youth Orchestra
(エル・システマのロサンゼルス版。2年前にスタート) - 今シーズンのドゥダメル指揮のコンサートは全てsold out
- アラン・ギルバート(42歳、ニューヨーク・フィル音楽監督)
- コンサートで演奏前に曲についての話をする
- 学校の生徒たちへのコンサート6公演に出演
(いずれも今までの音楽監督ではありえなかったそう) - ギルバートは、ボックスオフィスの列に並んでいるお客さんに声をかけたりしているそう。すごい!
一方、迎え撃つ巨匠陣からはこんな動きも。
- リッカルド・ムーティ(68歳、来シーズンからシカゴ交響楽団音楽監督)
- オーケストラのコミュニティにおける存在力アップを宣言。早くもタウンミーティングのような場を設け、学校だけではなく病院や刑務所などでも活動したいと語る。
郊外で活動するオーケストラならともかく、メジャーオーケストラで音楽監督自らがコミュニティとの関係強化の前線に立つことは、ティルソン・トーマスがサンフランシスコ交響楽団の音楽監督になった15年前には考えられなかった現象。
今やMTTのやったことは、普通にあたりまえなくらい、音楽監督の役割は演奏そのものの外側に広がっています。
これは100匹目の猿現象なのか、超大国アメリカの文化力で指摘していた、文化も人民のためのものでなければならないという民主主義イデオロギーのせいなのか、はたまた単純にマーケティングと資金調達の一環なのか?
私は3つとも影響しているように思います。
今後それぞれがどう発展していくのか?若手には若いエネルギーでどんどん活性化していってほしいし、対する巨匠たちには、年を経てしか至れないものを見せてがんばってほしい。
最後に、今のように先が見えない時代に芸術機関が果たすべき役割について、ティルソン・トーマスが2週間前にラジオで語っていたのを紹介すると、
人々がこれから進む方向を先取りしてインスピレーションを与える存在
となることだそう。どこまでも先をゆくのである。
参考記事
Wall Street Journal
Bright Young Maestros
By Barbara Jepson
October 27, 2009
New York Times
The New World on the Two Coasts
By Anthony Tommasini
October 22, 2009
Chicago Tribune
Muti to employ CSO as an instrument for social change, community outreach
By John von Rhein
October 15, 2009
(2009.10.28)
【追記】
こちらも案の定問題になっているよう。
Boston Grobe
A young maestro to assist Levine
By Ed Siegel
November 8, 2009
(2009.11.8)
【追記:その2】
この10年のアメリカのオーケストラの潮流を取り上げている記事。演奏の提供にとどまらない役割に言及しています。ティルソン・トーマス&サンフランシスコ交響楽団コンビの話、マリン・オルソップの成功事例他。
語っているのは、Anne Midgette (ワシントン・ポストのクラシック音楽評論)
Ten Questions For A Critic: The State Of Classical Music
(2009.11.19)