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ティルソン・トーマス&サンフランシスコ交響楽団に
注目する3つの理由

1.音楽の魅力

  • ティルソン・トーマス&サンフランシスコ交響楽団コンビ15年の蓄積 “機は熟した”
  • コンビの象徴
    ~独特の透明感あるアメリカンなサウンドとアメリカンなレパートリー~
  • 世界に新たな価値を創造するというサンフランシスコ・ベイエリアのパワー
    Google, Apple, Twitter も彼の地の会社。MTTはそういう場所で活動している。
    音楽は聴衆なしには成り立たないのだから、この地の利は日本で想像するよりもはるかに大きい。

2.オーケストラが何を提供するかのモデルケースだから

コンサートとは何か?

  • 同時代性、演奏者と観客の場と体験の共有、双方向コミュニケーション

コンサートで何を提供するのか?

  • 「感動」や「うまさ」だけではない
    感情移入はアプローチの一つ
  • 知的好奇心への刺激
    曲の組み合わせの工夫(テーマ性、意外性)
    知らない曲、現代曲、演奏の精度含め、聴き手の常識を超える体験
  • 様々な解釈・表現の可能性の探求
  • コンサートは1回毎のバラバラなものではない
    シーズンを通して提供する全体像が重要、トータルで聴き手のクリエイティビティやインスピレーションに働きかける
  • MTTの話すちょっとしたヒント(つまらない話はしない)
  • 何に着目して聴くか?聴き手の姿勢も問われている

オーケストラの社会における役割は変化

  • 音楽の力でどれだけコミュニティに影響を及ぼせるか
    特にアメリカでは、この10年でフェーズが移行したことは顕著
  • きっかけは、1980年代後半から公立学校で音楽の授業が縮小・廃止されたこと
  • オーケストラが地域に音楽教育を提供→教育活動がオーケストラの社会における存在の正当性を担保するものに
  • アメリカにおける民間非営利セクターの成長
    行政に頼らない「公共」、経営手法の確立、社会企業家・社会的事業へ投資の時代
  • ファンドレイジング手法の発展
    成果をはかれるもの、説明責任の要請が、パトロン的支援から正当性を誰にでも説明できる教育・コミュニティプログラムへの支援へと芸術支援のあり方に大きく影響
  • オーケストラを支える人(資金の出し手)と受益者(聴き手)がイコール
    オーケストラは顔の見えない不特定多数に向けて漠然と存在するのではない
  • 社会との関係強化にリーダーシップを発揮する音楽監督の登場
    MTT、マリン・オルソップ、(ヨーロッパでは)ラトル
  • この動きを象徴するサンフランシスコ交響楽団のプロジェクトがKEEPING SCORE
    プロジェクトのグランドデザイン、資金調達手法、何を伝えているかに注目

指揮者を評価するものさしも変化

  • 音楽監督のプロデューサー的手腕の重要性
    録音と来日公演だけではわからない
  • グランドデザインを描けるか、ビジョンを語れるか
  • オーケストラの社会との関係強化にリーダーシップを発揮できるか
    民間から資金を集める構造上避けて通れない
    ドゥダメルにかかる期待
  • ティルソン・トーマスは象徴的プロファイルの持ち主
    指揮者としてのゆるぎない実力、ショービジネスの感覚(祖父母の劇場、ロサンゼルス生まれ)、クラシックの枠にとらわれない音楽的バックグラウンド、教育者としての立ち位置、マルチタレント。世の中何が功を奏するかは“その時”が来ないとわからない。

中長期的視点の重要性

  • ハイパー未来志向
    音楽だけでなく、最新のテクノロジー、プラットフォーム、チャネルを試し駆使することも含め、ひたすらチャレンジし続ける
  • オーケストラのレベルを上げるとはどういうことか
    サンフランシスコ交響楽団の取り組みは参考になる
  • 社会に根差した活動は多面的かつ長期的なもの。成果はすぐには出ない
  • コンサートでも、ある程度の期間じっくりと一人の作曲家やアーティストを掘り下げようという動きの広がり

3.オーケストラ録音の新しいビジネスモデルだから

ダウンロードの普及やCD制作コストの低下で、手間をかけないライブレコーディングをとにかく世に出して売ってしまう動きがマーケットでは主流(収益の多角化にはつながる)

サンフランシスコ交響楽団がとった行動

  • 自主レーベルSFS Mediaで制作
  • 演奏も録音も徹底したハイクオリティでこだわり抜く
    ばかげているくらい最高を追求する存在がいてこそ、業界全体の発展がある
  • 制作コストは販売からの回収だけではなく、別途ファンドレイジング
  • マーケット・イン発想で制作するのではなく、むしろ顧客が気づいていないニーズをつくる発想
    聴き手のレベルから逆算しない。作品が新たなマーケットをつくる
  • 結果として、販売面でもオーケストラのブランディングにおいても大きな成果

自主レーベルで制作することの意味

従来のモデルとの比較

活動/主体 従来 SFSの場合
演奏 オーケストラ SFS
制作 レコード会社 SFS
マーケティング・宣伝 レコード会社 SFS
メディア&評論家 SFSウェブサイト
YouTube
ソーシャル・ネットワーク
流通 主:レコード販売会社&小売店 主:SFS直販(ネット/Store)
従:オーケストラ直販(ネット他) 従:ディストリビューター&小売店
iTunes他 iTunes他
聴き手(消費者)

*SFS直販を担っているのは、SFSを支えるボランティアの人たち
*権利関係がオーケストラに一本化されるので、二次利用等コンテンツを様々に生かせる

クラシック音楽ビジネスの仕組みを変える力

  • アーティストがウェブを使って直接情報発信する(強いウェブサイトを持つ)
    制作過程を見せる、理念を語る
  • アーティストが聴き手とのコミュニティを形成、それだけで完結
    (自分で作って共感してくれる人に自分で売る=中抜き)

ティルソン・トーマス&サンフランシスコ交響楽団はこれを徹底して展開しているため、日本で日本語の情報だけ見ている人は接点がない→MTTデバイド(知っている人は極端に絶賛しているが、知らない人は全く知らない)が起きている主因。

(2010.1.9)