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音楽の都のオーケストラ、ナッシュビル交響楽団体験記

“Music City U.S.A.”テネシー州のナッシュビルってどんな街なのだろう?と以前から興味がありました。また、アメリカのオーケストラに関する情報を見ていると、ナッシュビル交響楽団というのは、いろんな試みをしている団体のよう。という訳で、ナッシュビルへ。

ダラスからナッシュビルへ向かった飛行機には、ミュージシャンが乗っていたのですが、飛行中ギターと歌を披露、乗客は拍手喝采。キャビンアテンダントも「新しいCDが10月に発売されます。よろしく!」と機内アナウンスしていました(アメリカン航空)。いきなりすごい。

空港に降り立っても、空港内にはアーティストを紹介するパネル等が続く。

街中いろんなものがト音記号や音符をモチーフにしたデザイン。ミュージック・シティだ。

ホンキートンク

カントリー音楽などのライブハウスや楽器店が軒を連ねてにぎわうホンキートンクから、一本通りを隔てたすぐがコンサートホール(Schermerhorn Symphony Center)。ナッシュビルは2010年に大洪水があり、ホールも被害を受けたのですが、きれいに修復されていました。

ホール

建物は豪華。オープン・カフェやゴージャスなレストランもある。

コンサートホールはシューボックス型で、大きさはウィーンのムジークフェラインと同じくらい。アッシャーさん(ご案内係)がとても親切で、何人もの人に声をかけられました。

コンサート開始前には、別会場で指揮者によるプレトークがありました。私はウェブサイトをよく見たつもりだったのですが、プレトーク情報を探せず。着いたときには終わったので残念。どんな内容なのか聴きたかった。

本日の指揮者は、音楽監督のGiancarlo Guerrero。1969年ニカラグア生まれのコスタリカ育ち。エル・システマで教育を受け、今も中南米で活動しつつ、ヨーロッパやアメリカの主要なオーケストラに出演。ナッシュビルは今期3年目で、現代音楽を得意とする(コンサートの週数が多くないので、圧倒的な割合で音楽監督が振る)。今シーズンから、クリーブランド管弦楽団のマイアミ・レジデンシーで主席客演指揮者を務め、同楽団のマイアミでのアウトリーチ活動のイニシアティブをとることにもなっているという、活気に満ち溢れた人。コンサートの予定を見ると、Composer is dead(サンフランシスコ交響楽団が委嘱して制作した子どもにオーケストラを紹介する作品)のナレーターまで演じることになっているから、バイタリティがある方なのでしょう。私は初めて聴きました。

1曲目はコープランドの「アパラチアの春」組曲。ホールの残響がかなり長い。そして客席の物音も大きく響く。プログラムを落とす「バザッ」という音、靴音(驚くほど遅れてくる人がいました)。

コープランドはティルソン・トーマスが好んで取り上げている作曲家なので、私の聴き方は必然的にトーマスとの相対で座標をとることになる(というか、私はここ数年トーマスを最も多く聴いているため、指揮者の標準がトーマスになっている)。トーマスは空間や情景を描写しようとしますが、グエッレロのコープランドは純粋に器楽的なアプローチで、パーツをキャラクターづけするよりも、音型として扱っているように感じました。器楽的に弾くと、聴こえ方が違っていて面白かったです。

生まれて初めて体験した観客の反応

2曲目は本日のハイライト、Bela Fleckの作曲と演奏による、バンジョーとオーケストラのための協奏曲の世界初演。バンジョーのコンチェルトとは、非常にナッシュビルらしく、どんな音楽なのかとても楽しみにしていました。

フレックは登場しただけでものすごい歓声。曲は私にはいまいちピンと来なかったです。バンジョーは哀愁を帯びた音なのですが、オーケストラの響きは哀愁を帯びていない。その連関に必然性が感じられず、組み合わせの妙がわかりませんでした。

でも曲が終わったときの観客の反応がすごかった。曲が終わった次の瞬間にホールにいた全員が一斉に立ちあがって拍手喝采。歓声も生まれてこの方聴いたことがない大きさでした。こんな反応アメリカのどこの都市でもヨーロッパでも体験したことがありません。私が今まで見てきたサンフランシスコ、LA、シカゴ、ニューヨーク等のどのオーケストラにもない熱狂的な反応。

なぜこうなのか原因を考えてみると、一つは、バンジョー奏者のフレックがナッシュビル在住の非常に活躍しているアーティストで、観客は普段彼がどういう演奏をしているかをよく知っていたということ。だから地元の人々は、この曲も普段の彼の音楽との比較の視点で聴いていた。これはクラシック音楽の本来あるべき姿の一つなのかなと思いました。リストの曲なんかも、当時はそうやって楽しまれていたはずですし。

二つ目の理由は、ナッシュビルの人々は本当にいつも身近に音楽がある生活をしていて、音楽への反応にカントリー・ミュージックでもクラシック音楽でも分け隔てがないのではなかろうかという点。コンサートホールの前にミューズの像が立っていて、それはホールの建設に尽力した地元の人々への感謝の言葉が刻んであるのですが、「ナッシュビルの人々のどんなジャンルの音楽へも示す愛情」とありました。

三つ目の理由は、やはりオーケストラの規模が小さくなるにつれて観客との距離が縮まり、身近な存在である度合が高くなっていくのではなかろうかということ。コンサート前のプレトークに音楽監督が話すなんて(MTTの性質も関係するけれど)サンフランシスコでは考えられない。

とにかく観客の反応に驚くばかりでした。

コンサートの後半は、チャイコフスキーの交響曲第4番。オーソドックスなつくりの音楽。1楽章は終始重く、最後の4楽章は一貫してラテン系らしく盛り上がっていました。オーケストラは小ぢんまりとしながらも、よくまとまっているアンサンブル。

今日の公演はウェブキャストで放送されました。また来年春にはカーネギーホール公演も予定されているとのことで、楽団のCEOの方が応援よろしくとスピーチしていました。

(2011.9.22)