祝ハリウッド・ボウル出演、2013年初夏のMTTネタのまとめ

ここのところ、一つひとつのニュースは記事にするほどでもないかという状態が続いていたティルソン・トーマス。LAタイムズのマーク・スウェド氏によるハリウッド・ボウルのオープニング・ナイトのレビューを読んでいたら、妙にウケてしまったので久しぶりに記事にします。

オープニング・ナイトのマーラー《復活》

MTTはまた例によっていろいろ“やっている”演奏だった由。スウェド氏によるとそれを「好き放題やっている」と非難するのは的はずれだそうで、MTTはなぜそうするかを深く探ることができている、すべての拍において奥深くには何があるか内側を見ているかのようであると指摘していました。

そして全体のスケール感、優れたソロを活かす手腕、聴衆とのコミュニケーション力などへの言及が続くのですが、とりわけスウェド氏が驚いた点は、MTTが野外であることにお構いなしにものすごく弱音にこだわった演奏をしたこと。さらに聴衆もそれを熱心に聴いていたこと。野外かつ広大なボウルの会場では稀なことらしい。

LAでの公演となると、必ずMTTの50年前(学生の頃)を知っている人があらわれて、「ちっとも変わらないわねー(白髪以外は)」などとあれこれ言うわけですが、今回も「ヘリコプターが来なくて良かった」(若かりしMTTがハリウッド・ボウルでマーラーの千人を振ったとき、第2部の冒頭で上空にヘリコプターが入ってきてしまい、あまりの轟音にMTTは演奏止めて出て行ったという音楽祭史に残る逸話がある)とコメントする人が続出(LAタイムズにも書かれた)。

同紙に掲載された写真のMTTには、一瞬「どちらのご老人ですか?」となるのですが、ショットはとてもMTTらしい瞬間をとらえています。カメラマンさんはずごい。曲のどの場面か想像つくもの。

なおレビューでは、今年LAフィルが3ミリオンかけてLEDのビデオ・スクリーンを新調したところ(さすがLAフィル!)、画面が明るすぎて音楽を聴く集中力が殺がれるとの指摘あり。

LAタイムズのレビュー

ウェストサイド・ストーリーのこと

サンフランシスコ交響楽団の2012-13シーズン・フィナーレは、バーンスタインの《ウェストサイド・ストーリー》の完全版を初めてコンサート形式で実現させた公演でした。

バーンスタイン自身による録音はオペラ歌手が歌っていましたが、今回は全員ブロードウェイの歌手。聴きに行った方によると、やはりミュージカルは拡声するし、歌い方の習慣がクラシックとは違うから、初日は歌手のクレッシェンドでフォルテに達するタイミングが早く、ティルソン・トーマスの細かいニュアンスづけとは距離があったとのこと。

ところが2日目にかなり改善、3日目には完璧にMTTのディナーミクについていったとのこと。これはMTTもしくは誰か(ボーリン?カブレラ?)の指導なのか、それともブロードウェイで厳しい競争を勝ち抜いてきたスターというのは、若いし自分に要求されていることを理解する能力や対応力がずば抜けているのか、どちらなのでしょう?バーンスタインが天国から降りて来て導いてくれた?という説も。

とにかく非常に高い完成度で、観客もいつものデイビスとは思えない集中度と反応だったと地元の方が書いているのも見ました。録音がどのように仕上がるか、とても楽しみです。

アリス・ウォータースの「美味しい革命」

【最近読んだ本】
美味しい革命――アリス・ウォータースと〈シェ・パニース〉の人々
トーマス・マクナミー著
萩原治子訳
早川書房 2013年

バークレーのレストランが舞台なので、ジョン・アダムズがお客として登場するかな?とは思ったのですが、なんとサンフランシスコ交響楽団のマイケル・ティルソン・トーマスさんがご登場。

アリスの“食べられる校庭づくり”の活動のための資金集めパーティで、『料理の勝利行進曲』を作ってピアノを弾きながら歌ってくれたという内容。ご丁寧に歌詞も全部掲載されていました。日本語訳になると、ぶっとんだ発想が強調されてかなり怪しい。元の歌詞を見てみたいです(きっと韻を踏んだり細かしいと思う。395頁)。

2012-13シーズンを終えて

サンフランシスコ交響楽団は3月にストライキがありましたが、その後5月のベートーヴェン・フェスティバル、6月のストラヴィンスキー《春の祭典》初演から100年を記念する2つのプログラムによる公演、《ウェストサイド・ストーリー》とどれも非常に高い音楽的な成果を残せたもようで何より。ティルソン・トーマス指揮の公演は、企画ものや舞台ものが多かったのとストライキがMTT指揮の週だったこともあり、今期KDFCの放送はMTTが少なかったのが残念ではありました。

ニュー・ワールド・シンフォニーの方は、各方面のメディアで「マイアミへ行ったら行くべきスポット」の第1位を獲得。センターで行っている各種実験の結果もいろんなオーケストラとシェアし、実地へ移す活動が起きる段階に進み(ニュー・ワールド型のホールも現れている)、予想を超える発展を続けています。

最後に最近のアメリカのオーケストラ経営に関し、今起きている前向きな動きを象徴する記事を紹介します。

(2013.7.12)