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ニュー・ワールド交響楽団のフェローが何を学んだかを語る

サウスフロリダ・ラジオにはニュー・ワールド交響楽団(ニュー・ワールド・シンフォニー)のコーナーがあり、毎週フェロー(アカデミー生)が一人ずつ登場。どんな教育を受けているかを語っているのですが、その内容が興味深い。

毎回ティルソン・トーマスについてもふれるのですが、出てくる誰もが

あんな人、初めて見ました。びっくりです。

調のコメントなのだ。

彼らの意見を集約すると、MTTの曲に対するアイディアが、今まで考えたこともないものである。曲や作曲家についての歴史や背景の話が興味深い。どうしたいかを伝える方法(歌ってみせる、口で表現するさま)が独特で、それによって音楽が一変すること。ステージ上での彼の姿から得るものが大きいなど。

ティルソン・トーマスは、ホールにいる何千人もの観客を、彼と共に曲の世界を探検している気にさせることができる。その能力がすごいと思うという指摘もありました。スルドイ。

毎年新しく入ったフェローには、ティルソン・トーマスの個人レッスン(残りのフェローはオーディエンスとして聴く)があるそうですが、一人30分程度で30人いるから、それだけでも大変。フェローの人たちは、MTTがそんなに時間を割いていることにまず驚くそう。そんなにしてなぜやるのかは、一人ひとりを把握するというのもあるでしょうが、先生に言われたとおりに弾く世界から、自分で音楽をつくる世界に転換するための、一種のショック療法(?)みたいなものらしい。

バーンスタインの曲のリハーサル(指揮もコンダクティング・フェロー)にMTTがやって来たときは、「もうちょっとこんな風なんだけど」と言ったきり、何も言わずに一人音楽に合わせて一心不乱に踊っていたとか、本番の曲の途中でいきなり「ここからは即興だ」と言われ、フェローは何が起きるか見当もつかず、ついて行くのに必死だったとか。

日本の諸先生方が見たら卒倒しそうなエピソードにも事欠かず。

本番で全員が一つになって(その他の条件も揃い)、電気が走るかのような状態を体験したことも、何人もが語っていました。

アカデミーの教育については、スポーツ・サイコロジストによる本番で結果を出すための集中講義や多くの一流の指導者(年間70名程度)からの様々な指導、各種ワークショップ、プロのオーケストラ奏者と共に演奏することで得られるメリット、アカデミーに参画するアーティストやフェローなどと人的ネットワークが築けることなどが挙げられていました。

毎週毎週コンサートをこなすには、多くの曲を同時並行で準備しなければならないわけですが、そうした環境を実際に体験しながら、本番にピークをもっていきつつ、日常と本番のバランスをどうとっていくかを学ぶそう。プロの音楽家として活動していくために必要なことにフォーカスして、カリキュラムが組まれていると紹介していました。

他方で、フェローの話からは、彼らにとって目先のオーケストラのオーディションというものが、いかに大きな問題であるかということも伝わってくる。

アメリカでは、音楽教育において技術面の習得方法が研究された結果、多くの人が高い技術レベルに達せるようになったのだそう。その分オーケストラのオーディションで要求されるレベルも上がり、ポストが限られていることもあって競争は激化する一方。

実社会に出ると、芸術的な理想と現実との間で折り合いをつけなければならないことも多々あるでしょうが、ニュー・ワールド交響楽団での3年間はフェローにとって、音楽家として生きていくための力をつけ準備をしながら、純粋に芸術的な理由に基づいて行動することが許される最初で最後のチャンスなのかもしれません。

クラシカル・サウスフロリダ・ラジオ
(ニュー・ワールドの放送予定あり)

(2010.8.25)