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ティルソン・トーマスの「大地の歌」

ティルソン・トーマス&サンフランシスコ交響楽団のマーラー・レコーディング・プロジェクト。「大地の歌」が登場です。

この作品は、他の交響曲と形式が異なりますし、音楽の構成も違うので単純比較はできませんが、ティルソン・トーマス&サンフランシスコ交響楽団コンビが作り上げてきたマーラー表現の極致であることは、間違いないと思います。

このディスクの特徴

演奏の方は、音をまっすぐに発音するサンフランシスコ交響楽団のサウンドを生かしきっていて、どこまでも透徹された響きの先に音楽が立ち昇ります。

そして、彼らがお互いの音をいかに聴き合っているかということも、ティルソン・トーマスのバランス感覚もよくわかる。

歌唱は、テノールとバリトンの組み合わせを採用しており、テノールはオーストラリアのスチュアート・スケルトン、バリトンはトーマス・ハンプソン。

スケルトンは、1楽章の高音の引っ掛かりが玉に瑕ですが(この曲、のばす音の音域と母音の組み合わせが非常に歌いにくく、誰が歌ってもある程度いたしかたない)、熟練のハンプソンとの対比で、若さが魅力と至らなさの両面あることを体現していて、なかなかに良い選択だったのではないかと思います。5楽章などは、本当に素晴らしいです。

聴きどころ

特にチェックしていただきたいところを指摘すると、いつも言うことが同じになってしまうのですが、各楽章の終わり方、2楽章の荒涼としたところ、4楽章の中国舞踊みたいなところ。本当に衣が宙に舞っているように感じられるテンポ設定です。

その中で、何と言っても聴きどころ満載なのは、6楽章です。

過剰なものが何もなく、極限まで引き算の美学を追求しています。一つひとつの表現が練られているし、磨かれています。そして音の重ね方がとても自然なのですが、そのどれもが理由があってそうなっていると思わせるのです。

例えば、オーケストラに声がプラスされてはじめて和声がわかるとか、管弦楽に声が重ねられる入りの部分のバランスとか、最後の6度の音とか、そういうところにいちいち納得感があるのです。

また、私はフルート・ソロのカウンターメロディーが渋くて素晴らしいと思います。今までサンフランシスコ交響楽団はフルートが弱いとずっと思っていましたが、見直しました。拍がきっちりブレない中で表現することにより音楽の流れが生きるし、声と一体化した音楽になる。

ここはラトル盤と聴き比べれば一目瞭然です。ラトル盤はフルートが自分のメロディを表現すること第一に吹いているように聴こえます。

曲の最後は、悲しみと孤独が根底にありながらも、悲観的ではない。この上なく美しく、はかないけれど消えるわけでもなく、そこにあるけれど手は届かない、、、、という感じで終わります。

大地の歌の魅力再発見

ティルソン・トーマス&サンフランシスコ交響楽団のマーラーは、これまでは表現や音の斬新さにインパクトがあり、「こんなアプローチもあったのか」と感嘆させられる演奏でした。

でも今回の「大地の歌」は斬新さが前面には出てきません。楽譜に書いてある通り、余計なことは何もせず表現しているだけなのですが、何度か聴くとはっとする瞬間があります。そしてこの曲の魅力を再発見させられます。

最後に、このコンビの実演は毎回このレベルで体験できるということを付け加えておきます。

(2008.10.2)

「大地の歌」レコーディングの舞台裏を紹介した記事

地元紙(サンノゼ・マーキュリー)の制作秘話や舞台裏を取材した記事が面白かったので、内容をご紹介。

【追記】HMV池袋店の試聴コーナー

HMV池袋店に行ってみたところ、何と試聴ができる上に、SACDのコーナーだけでなく、新譜のコーナーにも交響曲のコーナーにも置いてありました。このような扱いを受けるのは、ティルソン・トーマス&サンフランシスコ交響楽団のマーラー・シリーズ始まって以来、初のことではないでしょうか。

彼らの前作までの実績の成果でしょうが、小売店さん、ありがとうございます!

サンフランシスコ交響楽団に対して、店頭での試聴がない、陳列場所が良くない、オンラインショップでトップページからの誘導がない等々の指摘を伝えてきた私としても本当にうれしいです。

試聴機を通しても、ちゃんと演奏の特徴が伝わって聴こえました。見た目から路線が違う感をかもしているMTT。「これ何だろう?」と、ぜひ多くの方の目に留まることを願っています。

(2008.10.5)

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