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サンフランシスコ交響楽団のグバイドゥーリナ・ウィーク

サンフランシスコ交響楽団では、2月に2週間にわたってロシアの作曲家、ソフィア・グバイドゥーリナを特集したのですが、その2週目に出かけました。

空港の入管で「あなた何でしょっちゅうサンフランシスコに来るの?」と聞かれました。ドンマイ。

コンポーザー・レジデンシー

グバイドゥーリナはサンフランシスコ交響楽団のコンポーザー・レジデンシーで招かれたもの。複数年契約で今後新作の委嘱も予定されているそう。

サンフランシスコ交響楽団のコンポーザー・レジデンシーは、これまでもジョン・アダムズなど長期の関係を結んでいる作曲家はいたのですが、今回新たな枠を確保できたことで実現、ベイエリアでは今まで聴く機会がなかった作曲家という観点からグバイドゥーリナが選ばれました。

今回取り上げたのは、まず長年グバイドゥーリナ作品に取り組んできたクルト・マズアの指揮で「The Light of the End」、シンフォニーの室内楽コンサートでの「Ravvedimento」、アンネ・ゾフィー・ムタ―をソリストに迎えてティルソン・トーマスの指揮でヴァイオリン協奏曲「In tempus praesens」の3曲。御歳77歳、現在はハンブルク郊外に住んでいるというグバイドゥーリナは、期間中サンフランシスコに滞在し、プレ&アフター・コンサート・トーク等で話をしました。

私が出かけたのは、ムターによるヴァイオリン協奏曲。フライデー6.5というコンサート・シリーズです。このフライデー6.5は文字通り金曜日の6時半に始まるもので、通常のコンサートよりも1曲少ない代わりに曲についての話があるというもの。開始が早い(通常は8時スタート)ので週末コンサート後にゆっくり食事ができるというのがウリです。また開始が早いと道路のラッシュアワーを若干避けられるメリットもあるようです。

コンサート

さて、ではどんなお話が出たかというと、思ったよりトークは少なかったです。まずティルソン・トーマスが大事そうにスコアをかかえて登場。スコアを客席に掲げて見せ、この曲に入れ込んでいるというような話を軽くした後、ハープシコードへ移動(今日はハープシコードが中央にセッティングされていたため)。テーマを弾いてみせ、「これを覚えていてね。簡単だからすぐ覚えられるでしょ」と歌ってみせ、その後それが展開するさまを聞かせるのですが、勝手に歌詞つけて歌っていました。ま、ドンマイ。

そしてムター登場。ブルー・グレーのマーメードラインの肩が出ているドレスでウェストのネイビーのリボンがアクセント。MTTは、黒のシンプルなスーツに白いシャツ、ブルーとグレーのストライプの幅広のネクタイにネイビーのフリルのポケット・チーフというスタイルで、ムターとのファッション・コーディネートが決まっていました。

「In tempus praesens」は「今この時」というような意味の1楽章からなる作品(演奏時間約33分)。ムターのために書かれ、2007年ラトル指揮のベルリン・フィルとルツェルン音楽祭で初演、その後2008年にゲルギエフ指揮のロンドン交響楽団との録音がドイツ・グラモフォンから出ており、今回は北米初演だそうです。

編成は、3本のワーグナー・チューバやバス・チューバ、コントラ・バスーンやバス・クラリネットなども入り、6人の奏者による14種類の打楽器、2本のハープ、チェレスタ、ピアノ、ハープシコードという大掛かりな一方、弦にはヴァイオリンがないという個性的なもの(ティルソン・トーマスは編成を紹介するとき、「ヴァイオリンはどこ?」と言っていました)。

ヴァイオリン・ソロのカデンツァなのかそうでないのかよくわからない部分が多かったのですが、完璧系で読みが的確なのムターのヴァイオリンは、精密画のような精度で表現されるティルソン・トーマスの音楽とうまく合って相乗効果だったのではないかと思います。ヴァイオリンが追い込んでは休符、また追い込んでは休符というパターンが何度も出てくるのですが、ヴァイオリンとオーケストラのその緊張と静寂が恐ろしいほど密度が濃かったです。

途中、津軽三味線のバチをたたく音にそっくりな音があったり(弦にヴァイオリンがないことで低音がクローズアップされ、そういう印象になったのだと思います)、曲の最後も水琴窟の音を集めたみたいに聴こえました。

サンフランシスコ交響楽団は、現代ものを演奏し慣れていて、サウンドが既にそのためにあるかのよう。ティルソン・トーマスは、曲が複雑であればあるほど組み立てを考えるのに張り切れるみたいで、妙に生き生きして見えました。お客さんも聴き慣れている感じで、曲が終わったとき、パープルの作務衣を着たグバイドゥーリナにスタンディング・オベーション。ソバージュ・ヘアで個性がはっきりしているけれど、どこかチャーミングさが漂う方でした。

コンサートの後半は、ラヴェルの優雅で感傷的なワルツとラ・ヴァルス。ほとんどトークはなく、とにかく聞いてみてという感じだったのですが、優雅で感傷的なワルツは、21世紀の感覚とは全く違うロマン主義的エレガントさというものを楽しんでほしいということと(21世紀の比喩がおかしかったです)、曲の終わりの部分、特にクラリネットに注目してと言っていました。

ラ・ヴァルスは、ティルソン・トーマスの良さが最もよく出る曲の一つではないかと思います。ごきげんに演奏しておしまい。

コンサートが終了したのが8時10分で、本当にその後の時間があって良かったのですが、コンサートは何かあっけなかったように感じました。もっと聴きたかった。

(2009.2.27)