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オーケストラの資金調達はビジネス・ウーマンが仕切る

サンフランシスコ交響楽団は、9月7日に99年目のシーズンを迎えますが、シーズンのオープニング・ナイトでは毎年ガラ・ディナーが開催されます。

こうしたガラはファンドレイジングのための重要イベントなのですが、このイベントでリーダーを務めるのが“チェア・ウーマン”、女性です。

チェア・ウーマンは企画から始まって、高額なガラ・ディナーのチケット販売や寄付集めはもとより、会場で参加者どうしをつなげる役割など、イベントの全てで陣頭指揮にあたる重要なポスト。地元メディアにも大きく紹介されます(注:ボランティアで、毎回違う人が選任されます)。

どういう人がなるのかというと、バリバリのキャリア・ウーマン。例えば、今年サンフランシスコ交響楽団でチェア・ウーマンを務めるのは、グローバル展開しているコンサルティング・ファームでキャリアを積んだ方。

昔は、女性が社会で活躍できるフィールドが少なく、富裕な家庭の奥様がフィランソロピーに情熱を傾けるというパターンだったそうですが、今はビジネス・ウーマンが仕事で培ったスキルや人脈などを全て投入して仕切るのだそう。

そしてこの手の女性の特性として、行動力があって「これは無理」とは考えない。

サンフランシスコ・オペラのチェア・ウーマンも、どのイベント会社を使うか決めるためだけに、自腹でロサンゼルスやニューヨークまで出かけ、6社にプレゼンさせて面談したというから、とにかくパワフルなのだ。

今年は景気後退の影響もあって経済環境的には厳しいものの、オペラの方は、従来から踏襲してきたやり方を全て見直し。ディナーをオペラ前にしたところ(今までは公演後だった)、8月早々にディナーのチケットを完売。多くの人が夜遅くに重い食事をしたくない、夜遅くまで続くのは疲れると思っていて、顧客のニーズに合致したそう。

シンフォニーの方は、来年の100周年への布石もあり、ベイエリア全域をカバーすることに主眼。ガラの共同チェアのポストを各地区に振り分け(9人)、年齢も各世代に分散するように配して、幅広い支援者を集めることを狙ったそう。

ここでもチェア・ウーマンの方が強調していたのは、“シンフォニー・ファミリー”という言葉。

サンフランシスコ交響楽団は、事ある毎に“シンフォニー・ファミリー”という言い方をして、オーケストラの演奏する側と聴く側が家族のように一体化することを目指しています。これはもう、オーケストラ・メンバーがちょっとしたスピーチをするときでも、ティルソン・トーマスがインタビューを受けるときでも、スタンスは全部“シンフォニー・ファミリー”。

もう一つ目についたのは、「教育目的」を強調していたこと。やはり芸術を全面に出すよりも、教育活動のためのファンドレイジングであると言った方が、理解されやすく、はるかに多くの人にリーチできるのだと思います。

日本でオーケストラの資金調達が話題にされるとき、アメリカ・モデルは民間からの寄付で成り立っているということが言われ、どこかから資産家で未亡人な老婦人(ウェルザー=メストが言ったような)が現れて大きなお金をポンと出してくれるように思われています。もちろんそうした都市もあるでしょうが、このサンフランシスコの例を見てもわかるとおり、オーケストラのファンドレイジングはもっと“仕組み”の問題で対象が広い。寄付をするのは、

(一部の金持ちではなく)あなた

なのでした。

詳しくは、サンフランシスコ・クロニクルの記事

(2010.9.5)