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アートのためのアート・マネジメント

私が皆さんにマイケル・ティルソン・トーマス&サンフランシスコ交響楽団のここを見てほしいと思う点は、彼らの全てが、

こういう音楽をやりたい

というところから出発しているという点です。こういう音楽をやりたいから、それを実現するにはどうしたら良いか?という部分でアート・マネジメントがある。はじめにアートありき。アートの中味とアート・マネジメントは常にセットだということです。

なぜこういうことを強調するかというと、私はクラシック音楽業界にもアート・マネジメント業界にも属さず、チケットを買うお客として関わってきました。だから部外者なのですが、外から見ると、日本のアート・マネジメント論が、アートの中味そのものをどう発展させるかということから独立した議論のように見えるからなのです。

例えば、経営学で経営戦略を論じるときに、プロダクツやサービスははずせない要素です。レクサスのケーススタディーをやるときに、レクサスがどういう車なのかに触れないなんてありえない。

ところがアート・マネジメントでは、「オーケストラ」の何とかとか、「クラシック音楽」を使った地域の人との触れ合いとか、「オーケストラ」「クラシック音楽」というように抽象化されて、そこから先は不問の議論になっている。

では、サンフランシスコ交響楽団ではどうか?

例えば、カンヌで開催された大きな音楽の国際見本市MIDEMのクラシック音楽部門で、今年(2008年)サンフランシスコ交響楽団は、紙面に大きな広告を出しました。マーラーのCDとKEEPING SCOREのDVDを紹介したものでしたが、個別団体でそのような広告を出しているところは他にありませんでした。自主レーベルでこれだけハイクオリティと高い評価を受けたラインナップを揃えられる団体は他にないからです。また昨年プロムスに出演したときは、2日間のコンサートともにBBCのテレビ放送を実現。ラジオは全コンサートが放送されますが、テレビは限られている(それでも多いですが)のです。

どうしてこういうことを次々と実現できるのか?

私は、営業するマネジメント部門の人たちが、ティルソン・トーマスが打ち出している「自分たちの音楽」と、21世紀の新しいオーケストラ像の範をつくるという目的に向かって、腹の底から納得していてぶれがないからだと思います。そこが求心力とパワーを生んでいるのでしょう。

サンフランシスコ交響楽団の経営部門の人たちは、芸術と経営の両方を同じように語ります。また音楽監督も組織としての発展という全体に関わっている。

彼らと話すと、常に5年先くらいを見て、中期的なタームの中で考え、動いているということを感じます。

サンフランシスコ交響楽団を取り上げるということの意味

アメリカのオーケストラや日米比較みたいな題材は、アート・マネジメントの世界では、言わば手垢にまみれ今更誰も見向きもしないテーマかもしれません。

でも、皆「アメリカのオーケストラ」という抽象的な存在として括って見ていた。個別の団体の芸術面や組織としての目的実現にマネジメントがどう機能しているかという点は、見落とされてきたのではないでしょうか。

このアート・マネジメント論一般ではあえて捨象されてきた、音楽と経営が一体となったダイナミズムを、ぜひマイケル・ティルソン・トーマス&サンフランシスコ交響楽団でご覧いただければと思っています。