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アメオケツアー2008の総括

今回のツアーは、ニュー・ワールド交響楽団の20周年記念シーズン・フィナーレに行くということがメインだったのですが、それ以外にも、サンフランシスコ交響楽団以外の活動も実際に見てみよう、そうするとまた違う視座が開けるのではないか?という点も大きな目的でした。

ニュー・ワールド交響楽団も含めて5団体を見て聴いたわけですが、結果として出かける前と後でアメオケに対する見方に大きな違いは生じませんでした。

総括すると

  • アメオケはそれぞれのマーケットがバッティングせず、お客さんは基本的に皆自分のところのオーケストラが一番だと思っている
  • それぞれのオーケストラは、地域特性を反映する部分が大きい
  • どのオーケストラも、聴衆の開拓とオーケストラへの支持と支援を集めるために大変な努力と工夫をしている

オーケストラ毎の特色

  • シカゴとロサンゼルスは、とにかく都会でバラエティに富んだ客層。したがって範囲が広すぎて、お客さんとなじみの親密さみたいな雰囲気にもっていくことが難しい。それぞれ地元の誇りだし、熱心なファンもそれぞれにいるけれど、皆でオーケストラを盛り立てていこうという感じではない。
  • 他方、シンシナティは地元の応援がとても熱心で、オーケストラと観客の一体感もばっちり。ただし客層が比較的裕福な年配の白人がほとんど。地域的に、そこから世界に先駆けた何かをやろうという地ではない。
  • そこへ行くと、サンフランシスコは適度に都会。そして何よりも、地域的に世界に先駆けた新しいチャレンジをベイエリアから発信するという気概にあふれている。この気質がMTTが提唱する、念仏唱えているみたいなクラシック音楽ではなく、“今”聴いて面白いと思えるクラシック音楽、社会的な存在としてのオーケストラというものに共鳴した結果、皆でオーケストラを盛り立てようという雰囲気が形成されている。

そこにやはりサンフランシスコを取り上げる価値があるのだと思いました。

演奏レベル

演奏レベルに関しては、今回聴いたオーケストラ間で差はほとんど感じられませんでした。はっきりしているのは、シカゴ響の金管と木管の個人技が傑出していることくらい。

指揮者とオーケストラのコンビという点では、これはもうサンフランシスコはものすごい境地だと思います。他では体験できない団体芸です。

ニュー・ワールド交響楽団

ニュー・ワールド交響楽団に関しては、やはりこの20年の成果がめざましいし、そのことに対するアメリカ国内の評価は、日本では想像できない高さです。その評価あっての新キャンパス計画だし、マイアミビーチ市がパブリックな場の中心に新キャンパスをもってくる決断をしたことが、そのことを何よりも象徴していると思います。ルネ・フレミングが「これはクラシック音楽の未来に対するポジティブ宣言なのだ」とコメントを寄せていましたが、その通りだと思います。

まとめ&今後の課題

私のアメオケに対する好奇心は、興味ゼロで聴いたティルソン・トーマス&サンフランシスコ交響楽団のCDに「!」と思ったことがきっかけでした。

その後サンフランシスコを切り口にアメオケというものをウォッチするにつけ、彼らは多様性がありすぎるアメリカ社会において、クラシック音楽の文化を生き残らせ、発展させるために、様々な工夫をしながら奮闘しているということを知りました。

彼らの取り組みとそれを支える地域社会というのは、アメリカ社会の仕組みそのものを反映しており、パワーとダイナミズムにあふれている一方、いろいろな問題も考えさせられます。

これらの背景とともに彼らの音楽を体験することは、それまで演奏内容にしか着目していなかった私のクラシック音楽体験を大きく転換させるものでした。

今後とも彼らの奮闘ぶりを応援しながら、それらを通して、「それじゃ、私たちは日本で何ができるか?」ということに発展させられるようなアメオケウオッチングにしていきたいと考えています。

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今回訪れたのは、いずれもアメオケ界を牽引している団体ばかりだったので、今後は個性的な活動をしているナッシュビル・シンフォニーとか、一度破産したサンディエゴ・シンフォニーのその後とか、経営危機にあるオーケストラに対する地元の反応などを実際に見に行き、違う側面からアメオケを見てみたいです。

(2008.5.11)

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